若武先生の日常。

もしもは無意味 ページ21

俺は、なんてことを言おうとしてたんだ……



協定がある以上、KZとして 超えてはいけないライン。
そのラインを全員が守っているからこその 組織が、ここにはある。


それを、俺は 一時の気分の高まりで、いとも簡単に 壊そうとしていた。


そんなことをしたら、どうなるか……




妖しくも見えるほど美しい 月明かりに照らされながら、一人 考えた。




上杉なら、額に青筋をたてて 怒るだろう。
それこそ、いつもの 喧嘩とは比べものにならないくらいのレベルでさ。



小塚はさ、俺にどうして？って聞くんだ。
決して許しはしないって顔をしながら。
あいつが怒ったら、絶対 こえーよ……。



そんで、黒木は 俺に問いただすんだ。
小塚と同じように なんでこんなことをした？って、マジなトーンで。



一番 分からないのは、美門。
きっと、伝えたら へえ。って言うんだろうけど、それにどんな思いがこもってるのか。
俺がわからないまま、軽い調子で なにか言うんだぜ、多分。


結局、全員が 怒るだろう、ってのは正解だと思う。
誰もが アーヤを大事にしてたんだ、俺たちKZは。

それを踏まえた上での、今のバランス。
壊すのにはそれなりの 勇気や覚悟がいる。

俺は 今の心地良いKZを壊す、勇気も覚悟もない。






……………



……けど。





もし……

もしも、だぞ？


あの時、俺がそのまま 伝えていたら……



アーヤは、どんな表情で、どんなことを思ったんだろう。





驚いた顔？
信じられないって顔？






それとも、



……寂しそうな顔？









…………


やめた。



こんな "もしも"を考えるなんて、すごく切ないし、無意味だ。






今、ここに誓う。



KZのためにも、

そして 俺のためにも、




この気持ちは 絶対 伝えはしない。





………絶対だ。

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