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それから数週間。
何度も何度も、Aが目につくようになった。
合同朝礼で。
教室移動の道すがら。
昼休みの学食で。
放課後の校舎前で。
随所随時、目に飛び込んでくる。
特段目立つような容姿をしているわけではない。
派手に着飾ってるわけでも、仲間内で大勢で群れているわけでもない。
かと言ってぼっちなわけでもなく、いろんな人と楽しげに話しているところを何度も目にした。
俺が一方的に見つけることのほうが多かったが、ときたま目が合うこともあった。
そういうときはいつもしばらく睨み合ってから、Aのほうが先に目を逸らす。
それがなんとなくつかまりそうでつかまらないような、ギリギリのところでふっと逃げられてしまうようでもどかしい。
いっそ自分から話しかけてしまえば、もう少し近くまで寄れるのだろうか。
そんなことを考えていたころ、突然好機はやってきた。
「えおえおーー!!数学!数学貸して数学!!」
バタバタと音を立てながら教室に人が飛び込んでくる。
やたらと焦った様子のそいつは、一直線に俺の前に座ったえおえおの席にダイブする。
Aだ。
直接対面するのは、あの日以来になる。
「……今日数学持ってない」
「うそーーー!!」
これは、もはや。
奇跡に近いタイミングと言っても過言ではない。
「俺、貸してやろうか」
そう言った俺は、平静を装えていただろうか。
(FIN)
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作者名:せとか | 作成日時:2021年5月6日 22時