3 ページ8
***
「あっちぃ。なんで窓閉まってんだよクソが」
放課後、いつものように一階の美術室という名の俺らのゲーム部屋のドアを開けると、籠もった空気がもわりと体を襲った。
カバンを無造作に放り投げ、えおえおと二人で奥の窓を開けにかかる。
「あ！A！」
真横で珍しく大声を出したえおえおに、肩がビクリと揺れた。
それは呼ばれた当人も同じようで、校舎の外で窓に背を向けていた人物が振り返る。
後ろ姿では気が付かなかったが、今朝えおえおと一緒にいた女子だ。
「びっくりした……何？」
「辞書返す、ちょっと待って」
「別に明日でいいのに」
「いや、忘れる」
A。
多分、こいつの名前。
Aっていうのか。
カバンを漁るえおえおを待つために窓に寄ってきたAをなんとなしに見ていると、ふいに視線が返された。
目がじっとあって、なんとなく睨み合うような形になる。
あとになって考えてみれば、その時間は多分1分もなかっただろう。
でもそのときはその瞬間においては、その10倍もの長さに感じられた。
「はい、ありがと」
沈黙を破ったのは無事辞書を引っ張り出してきたえおえおで、その言葉を合図にするようにAは俺から目を逸した。
「ん。じゃーまたね」
辞書を受け取ってカバンに無造作に突っ込んだAは最後にもう一度だけチラリとこっちを見て、パッと踵を返して去っていった。
「あろまーそこのコード挿して」
いつの間にか来ていたFBがそう言っても俺はなかなかそこから動けなかった。
えおえおが大声出したときに跳ねた心臓がまだ少しドキドキしているような気がする。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 22人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せとか | 作成日時：2021年5月6日 22時
