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ギターの音が全部消えた時、オレは「明日からまたオベンキョ頑張れよー」ってステージを下りた。
多分...駆け降りた、んだと思う。
大野さんが驚いたように「ニノっ！？」って後ろから声を掛けて来たけど、振り返らずにそのまんま着替えを置いてる音楽室へと向かった。
「みんなぁ、ありがとねぇ！」と、〆の挨拶をしてる大野さんの声が小さく聴こえた。
音楽室で学ランを脱いでサングラスを外し、机に腰掛ける。
生徒が机に座ってるの見付けたら叱るくせに。
やだね、オトナって。
「ちょっとニノー！おれ、喋んの苦手なのに...」
ガラっと音楽室の扉を開けた大野さんの動きが、オレを見て一瞬止まった。
「...ビックリした。生徒がいんのかと思った」
「いくら何でもそんな若くねぇだろ」
「子供みたいな顔してたから」
「何だそれ」
ハッ、と鼻で笑っても、彼はひとつも笑わずオレの前に立つ。
「ニノは卒業式でも泣かないのにね」
「はぁ？オレのどこに涙が見えんのよ」
「心」
「フハハッ！くせぇ！」
「......」
「...似合わないよ、そんなキザな台詞」
ちょっとだけ微笑んだ大野さんが、両手を広げた。
「慰めてあげよっか」
マジかよ、嘘だろ。
無い無い無い、30オーバーの男同士がやる事じゃ無い。
大野さん、アタマ大丈夫か？
...って、思ったんだけど。
「お願いしまーす」
何となく、頭を下げちゃって。
大野さんにハグして貰うなんて、異常な状況になった。
机に座ってるオレを、立ってる大野さんが抱き締めてる図はどう考えてもBなL。
なのに、妙に安心する。
オレ、大丈夫か？
「『手当て』ってあるでしょ？痛む所を手で押さえて貰ったら、和らぐ気がする...ってやつ」
「うん」
「ハグも同じ効果があると思うよ、おれ」
「......」
「心が痛いなら、体ごと抱き締めて貰ったら良いの」
「...だから、何か似合わないんだって。そーゆー台詞」
オレが言うと、大野さんが「そう？」って笑う。
「平べったいなぁ...」
「何？」
「どうせ抱き締めて貰うなら、豊満な胸が良いわ」
「おれだって、抱き締めるならふわふわの女の子が良いよ」
文句を垂れながら、息を吸い込む。
ほんの少し、絵の具の匂い。
「これ、生徒に見付かったらヤバイよな...」
「変な噂立つだろうね」
「マズイ、マズイ」
トン、と大野さんの胸を押して離れる。
「ニノ、持つべきもんは友人だと思わない？」
「自分で言うな」
大野さんが「素直じゃ無いね」と笑う。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2017年1月18日 21時
