色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ31)

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本当はサプライズで連れてってやるつもりだったこの旅行。

目的は、まぁ、彼女の一生一度の記念日にしてやろっかなー？なんて思ってたからなんだけど。
結局、それはもう目的では無くなった。

だけどせっかく予約もしてたし、サービス業のAと休みをずっと一緒に過ごすってのは土日休みのオレだとなかなか出来ないから、旅行だけはしようって事で今日に至る。

「ヘックシュ！」

助手席でAがクシャミ。
どうやら彼女は花粉症で、春先からずーっと辛そうだったけどまだ続いてるみたい。

「...あ...寝てた...」
「うん、寝てたな」
「...ごめん」
「別に良いけど。寝言、言ってたよ？」

Aが凄い勢いでこっちを見た。

「『和也くん、あたしをどうにでもしてぇ！』って」
「あー、はいはい。それは嘘だ！」

普通、こういう時って女の子は「えっ！？どうしよう！」みたいに頬を赤らめそうなもんなのに、Aはヘヘーンって感じで笑いながら偉そうにオレを指差す。

「だって私、そんな事普段から考えて無いもん」
「分かんないよ？夢は深層心理って言うし」
「...え？」
「Aって本当はそう思ってんのかなー？ってオレはちょっと興奮したけど」

なーんて、寝言も興奮も全部ウソだけど。
貴女は静かに寝てましたよ。

「A？」

何も言わなくなったAをチラっと横目で見ると、俯いて口をギュウっと一文字にしてる。

「おーい？」
「......忘れて下さい」
「え？何を？」
「...寝言...」

真っ赤。
え？オレの嘘、信じたの？

じゃあ、面白いから信じさせとこ。

左手を伸ばして、その頭をグシャグシャ撫でる。

「忘れてくれる？」

あ、嬉しそう。
期待に満ちた目でオレを見てる。

「忘れないでしょ」
「...ホント意地悪過ぎる...」
「知ってるくせに」

すぐに悔しそうなしかめっ面になって、「知ってるけど！」と向こうを向いてしまった。

でもその数秒後には

「海だ！」

窓を開けて、外を見てる。

「おー、潮の匂いすんね」
「ホテルは海辺？」
「ホテルは山ん中」
「そうなんだ」

別にガッカリしてる感じでも無い。

「和也くん、運転疲れてない？」
「ううん、全然」
「そっか」

最近教習所に通い出したAは、運転するオレの横顔を見ては

「今度は私が運転するから、どっか行こうね！」

と、話す。

その度に「やだよ、怖い」と応えるのが最近のオレ達の定番の会話。