色恋戦線【ars K.N】 (ページ37)

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日曜、いつものように花嵐堂へ向かう。

店に入ると、結城がどこに居るか探すようになってるとか、誰にも言えない癖。

本屋の方に居た店長と、今度教材にしようとしてる本の在庫があるか聞いたり軽く話をしてからカフェカウンターへ。

「おっす」
「こんにちは、いらっしゃいませ」

キミはすぐに『本日のコーヒー』を用意しようとして動き出す。
ふと、手元を見るとそこにある『本日のジュース』の所に『スイカ』と書いてある。

スイカ？
スイカのジュース？

「あ、ちょっと待って」
「え？」
「ねぇ、スイカなの？」

キミは少し驚いたように「あ...はい、スイカです。美味しいですよ！」と答えた。

「瓜臭くない？」
「臭くないですよー。夏も終わるから、もしかしたらこれが最後かもしれません」
「最後かー...じゃあ、今日はこれにするわ」

最後とか言われたら飲んでみたくなるのが、人間の性。

出された真っ赤なジュースをその場で一口飲んだら、思ってた以上に美味くて。

「ん！ウマイ！」

思わず言うと、キミはフフッて笑う。
つられて笑っちゃいそうだったら、そのまんまいつものカウンター席に行った。

やっぱちょっと、ペース乱れる。
でもそれが嫌なのか？って言われると、決してそうじゃない。

恋心に翻弄されるとかもうオレ、いくつなのよ...なんて思いながらスイカジュースをストローで吸う。

さて。
大野さんに急かされてるし、そろそろ歌詞を書いてしまわなきゃいけない。
デモ送らなきゃ、ホントに大野さんが覚える時間が足りなくなる。

下書き用のノートとペンケースを出して、思いついた言葉をポンポンと書く。
まだ文章にはせず、言葉だけ。

頭の中で作ったメロディを流して、小さく鼻唄にして。
文字数を指折って数えたり。

一通り使いたいワードをノートに書き出した時、背後に気配を感じて振り返る。

そこには結城がちょっと気まずそうに立っていて、その表情が何とも言えない感じで口元が緩む。

「どした？」
「あ、何書いてるのかなー...と思って」
「んー？歌詞」
「歌詞？」

歌詞を書いてるのは、別に恥ずかしくも隠すような事でも無いけど、ここに並んでる言葉を見られるのはさすがにマズイ気がするからノートを閉じた。

「先生、歌を作ってるんですか？」

キミは驚いたように目を開く。

「あー、そっか。結城は知らないのか」

オレとキミが違う時間を過ごしていた期間は、結構長かったんだな...とこんな事で気が付く。