色恋戦線【ars K.N】 (ページ26)

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「オレ、あそこ行って来るからちょっと待ってて」

そう言って一人で向かい側にあるコンビニに行ったのは、脈打つ心臓が何だか照れ臭かったからだ。

コンビニの中は冷房がガンガンにきいていて、肌寒いくらい。
ブルっとひとつ震えて、店内を歩く。

「アイツ、何か飲むかな...」

飲料売り場の前でザっと商品を見渡して、白いラベルの付いたペットボトルに目が留まる。

国語準備室で美味しそうにソレを飲んでたキミを思い出して、迷わず手に取った。
それこそ『ご褒美』だと、キミにあげてた。

ミルクティー、好きだったよな。

ただ再会してから一度も飲んでる姿を見た事無いけど...もしかして好み、変わったかな。

ちょっと不安になりつつ、自分用のポカリも手にしてレジへ行く。
ついでに煙草も買って、コンビニを出ると纏わりつくような暑さ。
冷えてた身体が一瞬でダラリと溶けた。

ふ、と目の前のビルを見上げる。

非常階段の五階、踊り場。
手摺に両腕を乗せて、花火を見てるキミ。

口、開いてるし。

「...フフッ」

無意識に漏れた妙に甘ったるい笑いに、慌てて口を押さえる。

...何だよ、今の。
超ハズイ。

カンカンと軽い音を立てて、階段を昇る。

「ただいま」

振り向いたキミが「おかえりなさい」と笑った。

「お前、すっげぇ夢中で花火見てたろ」
「え？」
「下からお前見たら、ずーっと空見てたから」

口、開いてたよ？
気付いて無いだろうけど。

さっきのキミの顔を思い出して、また甘ったるく笑いそうになって

「あー、でもマジで綺麗だわ」

誤魔化すように、花火に目をやる。

万が一、胸が高鳴っていたとしてもそれは花火のせいだ。

自分の心音が聴こえて来る気がするけど、これは花火の音だ。って事にしとこう。

なんて、無駄な言い訳をして

誰に対しての良い訳なの、って自分に突っ込んで

あ、ミルクティー...と思い出して、キミの肩をペットボトルでポスポスと叩いた。

「オレ、お前ってミルクティーが好きなのかと思ってたけどコーヒー屋で働いてるから意外だなーと思ったのよ」

本当は

花嵐堂で働いてるのを見て『意外だ』と思ったのは、そんな事じゃ無くて。

何となく、結城は国語教師になるんじゃないかな...なんて思ってたから。
でも教育実習でキミはやって来なかったから、出版社とかそっち方面に行ったかなぁ...って。

時々。

本当に、時々。

オレは卒業して行ったキミの事を、思い出していた。