色恋戦線【ars K.N】 (ページ16)

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授業の無い時間に、保健室へ顔を出してみた。
平気そうなら、もう早退させようとアイツの荷物も全部運んでおいた。

彼女はもう起きてるらしく、戸田ちゃんが中に入れてくれる。

だけどカーテンで閉ざされたあちら側に目をやっても、彼女が起きて来る気配が無い。

「結城」

声を掛けてカーテンの中に入ると、彼女は布団の中に潜り込んでいた。
そんなにオレの顔が見たくないのか。
...見たくないか。

そこにあった椅子に座って、もう一度声を掛ける。

「結城、帰るぞ」

布団がモゾモゾ動いて、彼女がソーっと顔を出した。

「...帰る？」
「親御さんのケータイに連絡したんだけど、留守電でさぁ」
「あ...お母さんもパートで...」
「うん、だからオレが責任持って送りますって留守電入れといたから」
「...えっ？」

熱で潤んでる彼女の目が、大きく開いた。

「送るわ。帰ろう」

指に引っ掛けてた教頭の車のキーを、クルクルと回して見せると

彼女は表情を変えずに、布団からゆらりと起き上がった。

戸田ちゃんが心配そうに、フラフラしてる彼女を支えてやってる。

「駐車場まで、私も一緒に行きましょうか？」
「あー...戸田ちゃんはここに居なきゃ生徒が来た時に保健室無人なのはマズイでしょ」

困ったような表情になってる戸田ちゃんに近付き

「またオレが運ぶからダイジョブよ」

オレは、結城の身体をもう一度抱き上げた。

「重っ」

そう、言ってしまったのは

今思うと、何だったんだろうね。
照れ隠し？いや、まさか。

変な空気になるのを、避けたかったんだろうな。
結城が泣き出したりしたらどうしよう...って。

保身だったかもしれない。

彼女が、オレの腕の中で小さく丸まってる。
動いたらいけないと思ってるのか、それとも動く事が出来ないのか。
ジっと、固まってしまったように。

「先生、授業...」

その彼女が、ポツリと呟いた。

「オレ、空き時間」

期待をさせたらいけないと思い過ぎてたオレは、必要以上に冷たい言い方をしてしまったかもしれない。

後部座席のドアを開けたのも、わざと。
彼女の目の中に膜が張った事に、気付いて無い振りをしたのも、わざと。

・

本当に最低だったね、あの日のオレは。
傷付いてるキミを、更に傷付けて。

でもあの時は、あぁするしか無かったんだ。
...こんな言い方、キミは嫌いそう。

今更だけど許してくれるかな、って謝ったら

「えぇ...？」なんて、キミはきっと眉を顰めて笑うんだろうね。