色恋戦線【ars K.N】 (ページ32)

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結局キミは、チューハイの中からラムネ味なんて今まで誰かが頼んでるのすら見た事無い物を頼んで

「ジュースじゃん」とからかえば「チューハイです！」って言い返して来たくせに

一口飲んで「先生、これ美味しい！ジュースみたい！」なんて、嬉しそうに笑ってる。

「フハハッ！結局ジュースなのかよ」
「美味しいー！」
「そりゃ良かった」

本当に美味かったらしく、グビグビと飲んでる。
それこそ、ジュースみたいに。

「でもそーゆーのが一番悪酔いするからな？危険」
「悪酔い？」
「お前、酔いつぶれたコトとか記憶無くなったコトとかあんの？」
「...無いです」

これ、危ないパターンだわ。
もしくは、本当に強いって場合もあるけど...どっちだ？

「『お前は酒飲みになるぞ！』って、お父さんに言われてました！」
「自分の限界も知ってる？」
「限界...は、試した事も無いです」

単にあんまり酒に慣れてないだけか？

「やっぱ危ねぇな」

そんなコト無いとでも言いたいような、ちょっと不満げな顔。

子供みたいにコロコロ変わる表情は、オレに少しの背徳感を与えて来る。

あんまりキミが飲み過ぎないように注意しながら、食事して

最近読んだ本の話なんかをしてると

「先生、忘れ物！」
「え？」
「先生の忘れ物」

あぁ、そうだった。
これがキミが来た一番の理由だっけ。

キミが紙袋をテーブル越しに渡して来たから受け取って中を覗く。

「おぉっ！」

シャツと一緒に入ってたのは、読みかけのまんまで無くなってた文庫本。

「これ、どこ行ったのかと思ってた！」
「カウンターに置きっぱなしだったって」
「そっかー...あん時に忘れたのか...」

オレそんなに必死で追いかけたの？
自分の持ってたモン忘れて来て、しかも忘れた事さえ覚えてない程？

...ダッサ...ヤバいって。これは。
突っ走ってる高校生みたいじゃん...マジでヤバい。

「先生、早く続きが読みたいかと思って。だから、持って来たんです」
「ありがと、そーなんだよ。また買おうかと思ってた」
「良かった！セーフですね！加藤さんが保管しててくれたんです」
「加藤くんが？...でも昨日店では何も言われなかったな...」

確か昨日、加藤くんは店に居たし何なら喋ったんだけど。

「...忘れてたのかもしれないですね！」
「ま、そーなんだろうな」

ページをパラっと捲る。

栞が挟まれてる箇所を読んでも、...既読感が無い。

きっとあの時のオレは、読書どころじゃ無かったんだなと気付く。