第五十八話「気障な言葉」 ページ9
｢へぇ､弟君は可愛いのね｣
『真逆？貴女の方が可愛らしいですよ』
｢……うっ｣
｢お兄さんもカッコイイけど弟君の方がタイプかも｣
『百合の如く美しい貴女にそう云って頂けて嬉しい限りです』
｢……うっ｣
｢ねぇ連絡先教えて下さらない？｣
『勿論です､貴女の綺麗な手を煩わせる訳にはいかないので僕が連絡先を貴女の携帯に登録しますよ』
｢……うっ｣
いきなりですが､助けて｡
太宰が何処かに行った後､女性構成員十人ほどに囲まれて口々に色んなことを云われる｡
私は聖徳太子じゃないんだ！いっぺんに喋んじゃない！
『あ､あの？』
しかも丁寧に言葉を返していたら質問に答えたあげた子達が胸を押さえて倖せそうに目を瞑った｡
……いやいやいやいやいやいやいやいや｡
『大丈夫ですか？具合が悪いのなら僕が付き添いま』
｢はい､もう頭がクラクラで……｣
｢あ､私は胸が……！｣
｢私は気分が悪くて歩けな……｣
｢わ､私は添い寝して欲しいです……！｣
おいおいどうした？？？
え？なんで皆して急に具合悪くなるの？
てか最後､それ願望だろ｡
ギャーギャー騒いでる女性陣に圧倒されていると誰かに手を掴まれた｡
驚いてその方へ視線を向けると機嫌の悪い太宰が居た｡
『だ……に､兄さん？』
危ない､太宰さんって云おうとしてた｡
てかお前､私を置いてどこ行ってた？大変だったんだぞ｡
｢……生憎､僕の弟は用事があってね｡失礼するよ｣
どす黒いオーラを放ち､滅茶苦茶低い声でそう云った太宰は私の手を引いてその場から離れる｡
後ろを振り向くと彼女達は怯えていた｡
『ちょっ､兄さん？彼女達､怖がってたよ｡あれはやり過ぎじゃ』
｢やり過ぎ？どこが？一人の君にあんなに大勢で取り囲む方がやり過ぎだと思うけど｣
そこでハッとした｡
もしや太宰は私を助けてくれたのか｡
『そ､そうか……ありがとう』
｢ところでさ｣
資料室に連れ込まれて鍵を掛けた太宰が私を見ながらニコリと笑う｡
｢先刻の君が云ってたあの言葉｡どこで覚えたの？｣
『……え』
あの言葉？
彼女達に云った言葉か？
『……えぇと､頭の中に浮かんできたのを……口に出しただけで』
とは云ったものの､あの言葉は太宰を真似たものだ｡
じゃないと自分じゃあ､あんな気障な言葉は出てこない｡
｢ふぅん｣
太宰の目が怪しく光った｡
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作者名：らしろ | 作成日時：2020年8月10日 1時
