第五十九話「お礼と提案」 ページ10
怪しい雰囲気が資料室に漂う。
『あの、兄さん?』
「二人きりの時は名前で呼んでよ」
『や、でも……』
渋る私に太宰は私の顔を両手で包み込むように添えた。
「いい?判ったね?」
目が怖い、目が。
なんでそこまで拘るか判らないが、ここは彼の云う通りにした方が良さそうだと判断し、頷く。
太宰は私が頷いた事に満足したのかニッコリと笑って距離が離れた。
「却説、君の設定は病弱でひ弱な太宰治の弟なんだからね?
今まで姿を現さなかったのは風邪を拗らせ長引いていた所為だって事、忘れないで」
『判ってる、無駄に俊敏に動かないよ。大丈夫、ヘマはしない』
「判ってるならいい……行こうか」
太宰の後ろに雛鳥のようにくっついて歩く。
黒服たちの視線が痛い……
『こんにちは』
「あ、ど、どうも」
めっちゃ見てくるから挨拶したのに黒服は頬を赤く染めてキョドった。
「……A、黙って歩いて」
『……はぁい』
黒服の反応を私は笑いを堪えながら廊下を歩いた。
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数週間後
「案の定、モテモテだねA君」
『え、案の定なんですか』
首領の部屋
森はニコニコしながら私を見た。
ちなみに太宰は私の執務室に待機中。
「あ、そうそう。君を呼んだのはお礼と提案を伝えたくてね」
『お礼と提案?』
「君が私の評価を上げてくれているからだいぶ組織が落ち着きつつある」
ああ、と思い出す。
慥かに森に対してよく思っていなかった人達は私が説得をしたことで森に良い印象を与えることが出来ている。
中には人生相談をされた事もあった。
ゆっくりと話を聞いて三言くらい言葉を掛けたら滅茶苦茶お礼を云われた。
『……塵も積もれば山となる、です』
「慥かにその通りだね。礼を云うよ」
『恐悦至極に御座います』
私は頭を下げる。
すると森は次の提案へと移る。
「提案なのだけど、A君────幹部の座、狙ってみないかい」
幹部、その言葉に私は固まる。
十人……百人……否、何千人をも束ねる権力者。
首領程ではないが、十分に実力がないと成し得ない椅子。
『……何故、僕が?僕よりだざっ……ゴホン、兄さんの方が適任かと思います』
「慥かに
しかしね……」
森は立ち上がり私の目の前まで来る。
彼の瞳は底知れず真っ黒な瞳だった。
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作者名:らしろ | 作成日時:2020年8月10日 1時