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第十話「証人」 ページ10

夜が来て朝が来た。

そしてまた夜になる。


この一週間、私はずっと部屋に引き篭って窓から空を見ていた。


今日の月は満月だ。



────コンコンッ



扉が叩敲(ノック)されて返事をする前に誰かが這入って来た。




「行くよ」



『……何処に?』




何故か片手にギプスをはめている太宰は少女の手を握って引っ張る。

少女は抵抗せずについて行く。




『私、何度も死のうとしたんです』




太宰と共に昇降機に乗る。




『数字が“0”になれば私は死ねる』




けれど実行しようとしたが怖くて出来なかった。

情けなかった。




「……僕が殺してあげようか」



『……そうですね』




慥かに自分で殺るより誰かに殺ってもらった方がいいかもしれない。



目的地に着いて前を見ると森が立っていた。

私達三人はとある部屋に這入る。




「失礼します」




森はベッドに寝ている人に向かって軽く頭を下げる。

私は太宰と共に窓際へと立つ。




「お加減はいかがですか、首領」



「先生……幹部に伝えよ。鏖殺じゃ。
日暮れまでに対立組織も軍警もポートマフィアに逆らう者を全員殺せ」




その言葉を聞いて息を呑む。

これって真逆……




「……それは非合理的です」



視線を森の手に向ける。

月の光に照らされて一瞬だけそれはキラリと鋭く光った。




「殺せ……殺せ」




詛いのような言葉を発する首領に私は怖くなり視線を下に向ける。




「……目を逸らすな」




隣から太宰の声が聞こえて右手を握られる。


私は恐る恐る前を向く。




「わかりました。首領」




森は首領の頸にメスの刃を当てる。

そして勢いよく引いた。


血飛沫が壁にこびり付く。



メスがカランッと音を立て落ちた。




「……首領は病により横死された。次期首領に私を任ずると遺言を残されて」




手袋を取った森はゆっくりと私たちの方を振り返る。

その顔は首領……否、先代の血で汚れていた。




「君達が証人だ……いいね?」




私は太宰の手を握り返した。

やけに冷たかった彼の手を今でも覚えている。





━━━━━━
━━━




次の日




「記憶喪失じゃと?」



『……はい』




森の執務室。


森と太宰と私、そして紅葉さんが居た。




「この子は前と違っていい子だから。
紅葉君の部下達にそう云ってくれると嬉しいんだが」




森の言葉に紅葉は疑いの目で私を見る。


……以前の私よ、一体このお方に何をやったんだ?


.

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作者名:らしろ | 作成日時:2020年7月20日 0時

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