明日はどこに逃げようか 【羽宮一虎】

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そんな話を聞いてたから、じーさんがAにとってどれだけ大切な存在なのかもよく知っていた。



だからAが放心状態になってる間だけでも、オレが子ども食堂をなんとかしなきゃと思った。




といっても、料理なんかとてもじゃないけど出来ねぇし、雑用くらいしか手伝ったことなかったから、近所のおばさんたちに頼み込んでやってもらった。


手伝ってもらってる間だけは学校も無断で休んで、食堂内を掃除したり食器洗いをすることに徹して、必死にA達の食堂守って。







結局、Aが戻ってきたのは、じーさんの死から四日後だった。









「ありがとな、一虎。今日からは私が料理も雑用も全部一人でするから、安心しろ」


「何言ってんのオマエ？雑用くらいオレも出来るし」



「……ありがとう」








確かに子ども食堂にAは戻ってきたけど、A自身はすっかり変わり果てていた。



オレが中学に上がる頃には、金髪に染めていた髪は元の黒一色になって、開けていた筈のピアスの穴も塞がり始めていた。


一言で言うなら、不良から真面目に変わっていた。





なんでと聞くオレに、Aは「私だってもう成人した大人なんだよ。いつまでも若気の至り続けられるかっての」と笑っていたが、実際のところは分からない。




オレ自身も髪をリーゼントにしたり首に虎の刺青を入れたりして不良の道に突っ走ってたから、どうこう言える感じでもなくて。



Aが普通の女性になるのと、オレが不良になるのは、完全に入れ違いだった。








＿＿＿『私の愛機(ケッチ)が間違いなく宇宙一だ！』








オレは、Aのバイクふかす後ろ姿に憧れて、不良になったのに。








中学に入って一週間くらい経ったある日、いつも通り雑用を手伝ってたらAに「ちょっと来な」と店の裏手に呼ばれた。




そこに立てられていたのは、不良をやめてからはすっかり置物と化しているAの愛機(ケッチ)で。


長らく放置したせいでエンジンがかからないとかなんとか言ってた様な気がするけど、これが一体何なのか。






するとそんなオレの疑問に応える様に、ブロンッとバイクのエンジンが掛かる。








「は、なんでエンジンかかってんの」



「真一郎に頼んで直してもらったんだよ。オマエの為に」








歯を見せて笑うAの姿に、以前までの金髪姿が重なって。








「私からの入学祝いだ。この愛機(ケッチ)はオマエにやる」








＿＿＿＿＿＿大事に使えよ。一虎。







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