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「これ、オレの兄貴の真一郎。一年前くらいに死んじまったけどね」
シンイチロー。万次郎が口にしたその言葉を脳内で反芻し、Aはそっと目の前の墓石を撫でてみる。
硬くて冷たくて、到底自分達と同じ人間には思えない。けれど万次郎がコレを『兄貴だ』と言うのだから、無知なAは素直に信じた。それこそ、言葉通りの意味として。
ペタペタと墓石と戯れるAの姿を隣の彼は目に焼き付ける。
「多分ホントに墓石を兄貴だと思ってるんだろうな」と容易く予想は付いたが、周囲の人間で唯一死んだ兄貴を『生きている』ものとして扱うAが新鮮で、万次郎は止めなかった。
……否、止めれなかった。
無知な彼女の中では今も真一郎が生きているという事実が、素直に嬉しいと思ってしまったから。
一頻り
「もう帰る？」と万次郎が聞くと、小さな頭が左右に振られ、代わりに重力に従って垂れていた右手が、一回りも二回りも小さい手に引っ張られた。
「……ぁ、ぅ、……ぁ……」
「！……オレも撫でろって？」
「……ん」
「しょーがないな」
一瞬、万次郎はAが声を発したことについて言及しかけた。
けれどすぐにその口は閉じ、代わりにひねくれた言葉を返して真一郎の墓を撫で始める。
この一週間の間に、二人は近くの病院を訪れていた。理由は勿論、Aが喋れない原因を突き止めるため。同伴者は佐野家で唯一の大人である祖父だった。
そこで聞かされたのは、Aの病名は失声症であり、原因は過度なストレスであること。抑圧に抑圧を重ねられた結果、それが爆発して口を閉ざすようになったのだろう、というのが医者の見解であった。
そんな話を一緒に聞いたからこそ、万次郎はAが喋ったことに何も触れないことを選んだ。
過剰に反応をしてしまえば、逆にAのプレッシャーになってしまうような気がしたのだ。
だから何も言わず、彼はただ冷たい墓石に額を押し付けた。
「…………シンイチローに、紹介してぇ奴が居る。Aって言ってさ、今日からオレ達の家族になった子ども。シンイチローが居ない間に勝手に決めたけど、居ねぇそっちが悪りぃもん。今更文句とか言っても知らねぇから。……だから、Aとも仲良くしてやってよ」
側に居るAにも聞こえないような声量でポツポツと墓石に語りかける。
やがて言葉が止まり、万次郎の顔が上がった。「帰ろっか、A」そう言って笑う顔は、どこか晴れ晴れとして見えた。
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レモン - サイコーすぎんだろ‼️ 応援してます😆 (2022年7月2日 13時) (
レス) @page50 id: 97f09e59d6 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ぺたごんさん» ありがとうございます！今日中に続編に移行するつもりなので、続編もよろしくお願いします！ (2021年11月13日 8時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
ぺたごん - すごくすき愛した だぁじに悶えてます 続編待ってます！ (2021年11月13日 1時) (レス) @page50 id: 660f048392 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ただのバカですさん» そうです三ツ谷くんです（笑）多分本文でも書くと思うんですけど、みつや→みつゃ→みちゃ 的な流れから、みちゃになりました。続きものんびり頑張ります！ (2021年10月23日 0時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
ただのバカです - みちゃ？あっ、三ツ谷くんの事ね。え！？可愛くねぇ？みちゃだよ？胸取れるわ。ムフフ続き楽しみに待ってます。 (2021年10月21日 7時) (レス) @page45 id: acf5fa610c (このIDを非表示/違反報告)
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