檸檬の香りに沈む３【アンナチュラル 】

敵の姿−17− ページ47

「Ｆ……」


UDIで久部は宍戸の言葉を反芻していた。
中堂はパソコンをかじりつくように見ている。


「ボツリヌス菌の中毒死を否定する結果は出ませんでした」


ミコトは中堂に結果用紙を渡す。


「そうだな」

「これで鑑定書を書きます」

「現場で死んでた蟻の検査結果出たよ〜」


そこに夕子がやって来る。


『どうだった？』

「何が出た？」


矢継ぎ早に聞くAとミコトに夕子は答える。


「出ました。蟻酸が」

「蟻酸……蟻の酸。じゃあ何で死んだんだろ？５匹もいっぺんに」

『うーん？』


久部はそこに駆け寄ると検査結果の紙を見て言う。


「Formic acid、ギ酸……Ｆ！」

「「Ｆ？」」

『？』


首を傾げるミコトと夕子に久部は言う。


「橘芹菜さんの死因、蟻酸って事はないですか？」

「あ？」


また突拍子も無い意見に中堂も疑問視する。
久部は気にせず続けた。


「ボツリヌス菌じゃなくて」

『でも、蟻酸で人を殺すほどの毒性はないよ』

「蟻を500万匹ぐらい食べたら死ねるかも」


久部の仮説はAと夕子に否定されるが、中堂は声をかける。


「死因がどうした？」

「他に可能性あんのかなと思って」

「他？」

「例えば……フリーザー！冷凍してから殺されたとか。ほら、毛利さん言ってたじゃないですか、犯行日あの日誰も空き家に近付いてないって」


久部はホワイトボードに書く。
２８日死亡推定日
３０日遺体発見日


「本当の殺害日は２８日よりも前で、冷凍してたから死亡推定日がズレたとか」

「一度凍った遺体は解凍後余計腐敗が進む」

『スーツケースに入れられて常温環境下だったら２日もあれば余裕で腐っちゃうよ』


中堂とAの意見に久部はまた仮説を立てる。


「じゃあ、殺してからずっと冷房ガンガンかけてたとか」

「火事の時電源が飛んで空き家の電気は使えなくなったって聞いた」


夕子の情報に久部はホワイトボードへ記入する。

１月９日
火事 電気×と書いては思案する久部にミコトは何か慎重に、疑うように声をかけた。


「何でそんな事言い出したの？」


その質問に久部は気まずそうに答える。
神倉はそれを静かに見つめていた。


「警察がいくら捜しても犯人の姿が見えないって事は何か間違ってたのかなと思って……気のせいでしたね。すみません」

「よっ、ヘッポコ！」


頭を下げる久部に夕子はいつもの声をかけた。




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