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その111 ページ16

私が答えられずに黙っていると、左側に座っている諸伏警部が私の左手を取って薬指の指輪に触れた。

諸「Aさんの指輪と同じデザインです。それから指輪の内側にはAさんの名前が彫られています。」

『…』

諸「Aさんの言っていた亡くなった恋人というのは、私の弟、景光のことですね?」

不覚だった。まさかヒロの指輪が諸伏警部の元に届けられるなんて全くの想定外のこと。

それ以前に、ヒロが自分用にも指輪を買っていたことも考えていなかった。てっきり私の分だけ買ってくれたんだと思っていた。

今思えば、ペアルック好きのヒロなら婚約指輪にペアリングを選ばないわけないじゃないか。それもネックレスに通してあるから、きっと肌身離さず持っていてくれたんだろう。

『…そうです…私の彼氏は景光…諸伏景光です…』

言ってしまった。もう言い逃れはできないから正直に認めざるを得ない。

諸「やはりそうでしたか。ようやく見つけました。」

『え?』

諸「私は景光と離れてから電話や手紙のやり取りをしていました。ある時から手紙の内容が彼女の話題で溢れかえっていたんです。名前は伏せられていましたが、景光とその彼女が相思相愛であることが伝わってきました。」

そうだ、彼女ができたことは手紙でもう伝えたってヒロが言ってた。まさかそんなに私のことを書いてくれていたなんて…

諸「景光は私にとって唯一の家族。そんな弟を大切にしてくれている彼女に感謝を言いたいと思い、ずっと探していたんです。」

握られていた左手に力がこめられる。

諸「ありがとうございます、景光を愛してくれて。Aさんが恋人なら、きっと景光も幸せだったでしょう。」

『そんな…お礼を言いたいのは私の方です。ヒロには出会った時からずっと優しくしてもらいましたから、それはお兄さんに優しくしてもらったからなんじゃないかって思ってたんです。』

これは全て本当のこと。ぶつかった私に手を貸してくれた時からずっと、いつもヒロは優しかった。

諸「病院で、なぜ私がAさんに優しくするのかと聞きましたね?それには似ている事以外にも理由があります。」

『ヒロの彼女だからですか?』

諸「いいえ。私も愛しているからです、Aさんを。」

『え…』

諸「私は景光と同じくらいAさんを大切にする自信があります。私とお付き合いしていただけませんか?」

こんなにいきなり告白されるなんて思ってもいなかった。

でも、もう答えは決まっている…

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作者名:おひたし | 作成日時:2019年5月28日 18時

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