断ち切られる鎖 ページ16
一歩、また一歩。赤い絨毯の上を歩く度に胸が苦しくなる。隣を歩く人が杏寿郎だったらどれ程良かっただろう。Aは眉を潜めた。
もし杏寿郎だったら、燕尾服は肩が苦しそうだ。それにきっと袴の方が似合う。一緒に…人力車に乗って、柱に祝ってもらって、皆んなに幸せな姿を見せたかった。でも、それは幻想だ。叶わない夢だ。
牧師が黙々と式を進行する。Aには全く聞こえていなかった。虫の囁き声のような、聞いていてもすぐ忘れてしまうような、そんな音としてしか認識していなかったのだ。
はっと我に帰ったのは、指輪交換の時。指輪出せ と催促をされてやっと気が付いた。
手袋を外される。傷だらけの指が曝け出された。それを新郎は鼻で笑いながら指輪をはめる。
「やっぱ汚ぇな。お前の指」
Aも相手の指輪をはめようとするが、如何にもこうにも入らない。規格外の指の太さなようだった。思わず失笑。指輪をはめた程で話は進んでいった。
“それでは、誓いのキスを”
牧師のとどめの一撃にも等しい言葉が教会中に響いた。彼女のベールが上げられる。気持ちの悪い顔が目の前にあった。拒みたい気持ちでいっぱいだったが、幸いな事が一つ。
(…初めての口吸いが杏寿郎で良かった)
Aは目を閉じた。腰を触られる。肩を掴まれる。吐息が顔に掛かる。
さようなら、思い出達
口が重なり合うほんの数秒前、教会奥の扉が大きな音を立てて開かれた。姿は陰っていて見えない。でも、彼女は声で分かってしまった。
「その結婚、ちょっと待った‼‼」
会場が騒つく。ずんずんとバージンロードを進む男は新婦の目の前で止まった。
「…きょう、じゅ…ろ?」
「A、君を迎えに来た‼」
大きな手が彼女の目の前に差し伸べられる。Aはその手を取るのに躊躇した。その原因が喚き出す。
「だ、誰だお前は‼勝手に乱入してきて、結婚式を台無しにするな‼」
「それは済まない事をした。だが、愛した女を手放す訳にはいかないんでね。Aを奪いに来た」
爽やかな笑顔だった。煉獄は、Aを横抱きにしてその場を去ろうとする。式は渾然としていた。
煉獄を引き止めようと伸ばした新郎の手を、客席から飛び出した蛍火が弾く。
「行ってください、お義兄さん‼何処か遠くに。なるったけ遠い所に」
「かたじけない‼」
流石柱、と言わんばかりの常人には目に見えない速さでその場を駆け抜けた。その背中を見送る蛍火は涙を流す。
“姉さん、お幸せに”
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橘欅(プロフ) - 柚葉さん» 此方こそ読んでいただき感無量です!拙い文章ですが私なりに煉獄さんのかっこよさを出したつもりの作品でした!本当にありがとうございます! (2021年4月16日 22時) (レス) id: 008152d6a1 (このIDを非表示/違反報告)
柚葉(プロフ) - やっぱり煉獄さんはカッコいい!!素敵な作品を読ませていただきました!ありがとうございました!!! (2021年4月15日 8時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
めい(プロフ) - コメント失礼します。私名前がメイなんですよ。それで名前ひらがなで読んでったらめいめいメイになりました!面白すぎません笑? (2020年3月18日 22時) (レス) id: f101cde2b9 (このIDを非表示/違反報告)
橘欅(プロフ) - あおさん» ありがとうございます!最近寒いですね〜、私の地方にも白鳥が訪れて来ました。最後まで御愛読ありがとうございました!次回作も是非目を通して下さいね! (2019年11月12日 22時) (レス) id: 4f6b87549d (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - 橘欅さん» 楽しみに待っていますね!無理はなさらずに、最近は寒いので体を冷やさないようにしてくださいね〜 (2019年11月11日 2時) (レス) id: 03cb9b6635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘欅 | 作成日時:2019年10月27日 1時