悪魔と葡萄酒【ジゼラ・ヘルファム】 ページ2
大きく輝きを放つシャンデリアの下を可愛らしい教徒が通り抜け、重厚な玄関口の奥へ消えていった。
聖堂内の端に佇む、背の高い置時計の短針はもうすぐ午後9時を指す。僕は視界の端でそれを捉え、笑顔で話す教徒へこう告げた。
「おや、もうこんな時間なのですね。貴方とお話していると時間も忘れてしまいます。さあ、家に帰らなければ夜闇に飲み込まれてしまいますよ」
最後の一人を外まで見送り、騎士によって閉じられた正門を遠目で見る。彼らがどうか無事に帰宅出来るよう、胸の前で手を組み神にそっと祈って僕は瞑っていた瞳を開いた。
大聖堂の窓から漏れる光が僕の羽の無い影を細長く伸ばした。やわらかな花の香りを運ぶ緩やかな風が、長い髪を靡かせている。
その光に囲まれた朧気な僕は、瞬きをする間に、闇に飲まれていた。
聖書を抱えていない方の手で大聖堂の扉を開く。煌々としていたシャンデリアは身を潜め、代わりに優しげな月の光を浴びたステンドグラスが、幾つもの長椅子の奥にあるというのに僕が顔を上げなければ目線が合わない程の十字架に光彩を降り注がせていた。
僕はかろうじて明かりの残っている側廊を通り、その蝋燭の火を一つずつ消していく。
反対側の側廊の蝋燭はフィーナが消していた。火の苦手なティムや、海の生活が長いアリアさんにこの仕事を任せるわけにもいかなかったのだろう。
最後の小さな聖なる炎を消し、漂う煙の行先を見守って大聖堂を後にした。
その白い壁に沿って靴を鳴らす。
僕が歩くすぐ下では、もう、10歳にも満たない孤児らが眠っているのだろう。可愛らしい無垢な教徒である彼らに、どうか安らかな眠りを。
僕はまた神に祈った。
しかし、神に祈らずとも彼らの安眠は保証されています。滑らかなシーツ、やわらかな枕、あたたかい毛布。僕が教徒のために揃えたのだから当然でしょう。
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開(プロフ) - いろいろな作品更新されたあとありますがPCが重くて間違えて触ってしまい更新された状態になってしまいました申し訳ないです、、一応触ってしまっただけなのでみなさまの文章に言葉が欠ける、増えるなどは無いです申し訳ありません (2022年3月21日 7時) (レス) id: 62c5ad2de3 (このIDを非表示/違反報告)
理紗@プロフ一部更新(プロフ) - 作者様を巻き込みたくないので出来れば他の作者のCSSに変えた方が良いと思います (2021年3月3日 2時) (レス) id: c9fefc2be8 (このIDを非表示/違反報告)
理紗@プロフ一部更新(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。私のCSSを変えていただけないでしょうか?どうやら再配布禁止の画像を使っていたので申し訳ないですが。大変ご迷惑をかけしました。全部が違反した分けではないのですが保証も出来ないのでよろしくお願いします。 (2021年3月3日 2時) (レス) id: c9fefc2be8 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - Melcheさん» 更新お疲れ様でした! シャルルさんとテレーゼさんは前からのお知り合いだったんですね。それにしても、シャルルさん視点のお話、面白いですよね笑 軽快な書き方がとても好きです! (2021年2月22日 23時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
Melche(プロフ) - 更新終わりました!最後のオチが上手くいかなすぎて泣きそうになりました() (2021年2月21日 20時) (レス) id: 10c523e9ad (このIDを非表示/違反報告)
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