かつての恩 ページ26
半年前。
東矢と奏乃が出会った数ヶ月後。
怪人に荒らされた住宅街にて、懸命に瓦礫を掻き分ける男がいた。
「龍騎! 龍騎! 無事か!? いるなら返事してくれ!」
警察らしい格好の彼は、己の身一つで何とか瓦礫を一つ一つどけていき、懸命に名前を呼び続ける。
所謂、「無能力」と呼ばれる類いの人間で、一切の能力を持たない生身の人間がこの世界ではたまに生まれる。
異能力を持たない者はこの怪人の蔓延る世界ではあまりにも貧弱。
ヒーローにもなれず、魔法少女にもなれず。
肩身の狭い社会の中、それでも必死に警察として戦ってきたらしい彼は今、彼自身の大切な息子の為に奮闘していた。
辺りの人間は皆落ち着いて避難している。
警察の案内によるものだろう、あるいは彼の尽力のためかもしれない。
その上で彼は、我が子の為に必死に無い力を振り絞り続けていた。
「……へぇ、やるじゃねえか」
「凄いなぁ……家族の絆って」
二つの声が、男の頭上から響いてくる。
その正体を確かめるよりも早く、男は地面に頭をついていた。
「お願いします! 僕の息子を、どうか助けてください!」
その必死の懇願に応じた二人は、いきなり変身し、その力を解放した。
「努力ある者に勇気を、ノーブルグリーン」
「聖なる光に幸あれ、ミラクルチェンジ、シャイニー」
一人の少女はその体躯に似合わない巨大なハンマーを取り出し、瓦礫の山を豪快に消し飛ばした。
一人の男性は瓦礫の細切れを一気に浮遊させてどかした。
するとその下には見慣れた男子の身体が、多少傷ついていたとはいえ一定のリズムで呼吸を行っていたところが見えた。
「龍騎!」
思わず駆け寄り、抱き締める。
意識はないようだが、確実に生きている。
「っ……ありがとうございました!」
「おう、気にすんな」
「はい。私達は当たり前のことをしたまでですから」
二人に感謝を告げるが、二人は当たり前のように笑ってみせ、男性の方はポンと彼の肩を叩き、こう言った。
「それよりも、家族の為に踏ん張れて、一切迷いなく助けを求めたお前の方が立派なヒーローしてるぜ」
「い、いえ、そんなことは……!」
「草薙さんの言う通りです、カッコいいですね」
そんなことを言われれば照れるしか無いが、ふと照れ隠しのように二人に最後の言葉を投げ掛ける。
「あの、名前を伺っても……?」
「あー……俺は草薙東矢、またの名をノーブルグリーンだ」
「私は唐沢奏乃。またの名をシャイニーですよ」
笑顔で微笑んだ二人は、そのまま飛び去ってしまった。
その背中が、男の目には深く刻まれていた。
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作者名:クロロフィル@深緑の指揮者 x他1人 | 作者ホームページ:http
作成日時:2023年3月8日 14時