“魔王” ページ20
｢ち、ちょっと待ってください、魔王ってあの……ラスボスみたいなやつですよね？｣
｢おう｣
｢その人が師匠的存在なんです？？？｣
｢おう｣
やや落ち着いてきた様子の奏乃だが、それでも疑問が残るらしく東矢に問いかける。
｢……悪い人、だったんですか？その人｣
｢いんやちっとも、むしろ聖人の域だろアイツ｣
｢えぇ……じゃあなんで魔王やってるんですか……｣
即座に否定されて困惑する奏乃に、東矢は更に続けた。
｢不思議な人だったんだよ。魔王の癖に勇者の俺を勧誘したし、人魔の共存の為に尽くしてたし、滅茶苦茶優しいし……｣
｢へぇ……とにかくすごい人なんですね｣
｢おう、それでえげつなく強いんだよ｣
｢そうなんですか？｣
｢おう。何回か挑んだけど結局全敗だもんな｣
｢えっ、草薙さんが!?｣
信じられないといった様子で問い返した奏乃の言葉を、東矢は無言で頷き肯定する。
｢……あの人に会ってからさ、俺、色んなことを教わったよ。誰かと過ごす時間の幸せとか、人の見方とか、使命と意志の違いとかさ……自分がいかに愚かだったか思い知らされたわ｣
｢そんなに……？｣
｢おう。『使命だとか、天命だとか、んなもん二の次だ。やりたいことをやれ。好きなように生きてみろ。何せ、お前の人生の決定権はお前にあるんだからな』……俺の好きな言葉だ｣
しみじみと告げたその言葉からも、その魔王とやらの人物像が見えてくる。
そして、彼へと向けられた尊敬心も。
｢それからさ。俺が自分の好きに生きれるようになったのは。ずーっと長いこと俺は“勇者”に囚われすぎてた。その心の檻をアイツはブッ壊して俺を解き放ってくれたんだ。｣
｢……自由に生きる、ですか｣
｢おう。だから俺も守りたいからヒーローになったし、お前という大事なモンの為に戦うんだ｣
｢……ふふっ、そうですか｣
東矢の行動原理は至って単純。
守りたいから戦い、気に入らないから殴る。
そんな彼を見ていると、色々な物に縛られ張り詰めていた自身が馬鹿らしく思えてくる。
｢……私も、私の為に生きていいんですかね？｣
｢……奏乃の好きにしろよ｣
その冷たいようで優しい一言に、また笑ってしまうと同時に東矢がまた大きく眩しく見えた奏乃だった。
,
｢ちなみに俺転生してっから中身は実質48だぞ｣
｢うっわ聞きたくなかったその事実……｣
｢見た目はともかく俺はおっさんなんだよ｣
｢自虐しないでください聞いてて辛いですって……｣
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作者名：クロロフィル@深緑の指揮者 x他1人 | 作者ホームページ：http
作成日時：2023年3月8日 14時
