重力遣いの新相棒【文豪ストレイドッグス】

幻影 ページ25

〜中也side〜



「おい、A」


俺はこいつの名前を呼ぶ。

だが、帰ってくるのは呻き声だけ。




「はあ、ダメか」


俺はため息をつく。


するとAがビクッと肩を揺らす。

そして怯えた表情で俺を見上げてきた。



「ああ、悪い。お前がイヤでため息ついたわけじゃねえよ」





「…そっか」


「…！」



俺が驚いて見ると、Aは弱々しい声で、


「…ごめん」



と言った。



その声は泣きそうで。

苦しそうで。



だけど俺にはどうしようもない。






「もう大丈夫なのか？」


「うん」


「…うそつけ」



俺はそう言って、Aの肩に触れようとする。

すると案の定、こいつは体をビクつかせた。



「ほら、まだ大丈夫じゃねえ」


「…ごめん」


「謝らなくていい」


「うん」


「…また思い出したのか？昔のこと」


「…うん」


「そうか」






こいつにはこう見えて、つらい過去がある。

その過去の幻影に囚われて、こうやって苦しんでいる。

…普段はおちゃらけているがな。





俺はAの隣に座る。

Aは少しは落ち着いたのか、俺が隣に座っても怯えはしなかった。




「…ここはマフィアだ。『あそこ』じゃねえ」


「うん」




俺が言い聞かせるように言うと、こいつは少し安心したのか、俺に寄りかかってきた。





「…ねえ中也」


「なンだ？」


「…私のこと、捨てないでね」


「…ああ」


「ちゃんと頑張るから。もう二度と負けないから。だから……」


「もういい」


「…！！」


「捨てねえよ、誰もお前のことを捨てやしねえ」


「…っ」


「わかったか？」


「…ありがとう、中也」



そう言って、こいつはフワリと笑った。


ようやく、いつもに少し戻ってきたみたいだ。







「あーあ、でもまた負けちゃった」


「はっ、俺に勝つには100年ぐらい早いな」


「絶対いつか勝ってやるんだから！」



Aはいつもの明るさを取り戻したみたいだ。

それを見て俺も、少しホッとする。






「よし。じゃあ訓練の続きするか」


「うん！」


「相変わらずお前は防御が弱い。今日は徹底的に防御だけをやる。俺の攻撃を反撃せずに防げ」


「りょーかい！！」




こうして俺たちは、また訓練を再開した。

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