憔悴と恋慕 [十四松] ページ39
力は弱いが鈴木さんは笑う。
「薬剤師の先生もここからスタートなんだな…。」
「っ…」
"先生"という慣れないワード。
練習でも何でもない、実際の患者さんの迫力。
"自分の生"と"自分の死"に向かって必死に戦っている人に介入する空気。
その全てが私の足を止めそうだった。
「私、赤塚大学薬学部、実習生、AAと申します。鈴木一夫様でお間違いありませんね。」
「…。」
吟味するように、否、興味がなさそうに鈴木さんは目を細めて頷いた。
ベッドから起き上がる様子もなく目線だけこちらに向ける姿を前に、そっと、目線を合わせるために近寄ってかがむ。
「本日からお薬の内容が少し変わりますので説明に参りました。」
「……。」
次のセリフが頭に浮かぶ…が……。
「お、加減は……」
こんなの…
こんなの、お加減なんて……
「いかがですか。」
【悪い】に決まってる…。
それを悟られまいと、流れのように言ったつもりだったが。
経験の浅さと、邪念のせいで、自分でもわかるほど、少し声は震えていた。
いや、私が内心慌てて溺れそうになっているだけだ。
考えすぎだ、今は説明に集中しろ…そうすれば
「……お加減もクソもないわ。……どうせ死ぬんだから。」
「――――――――。」
****
そう。
そこから、私は…それまでの緊張が嘘のように。
嘘のように。
さらさらと薬の説明を、事も無げにやり通した。
何て言ったんだっけ？
疲れている人に"頑張れ"は禁句だと習ったから。
「…最低だ……私……」
夕暮れの中、松野家の中庭の縁側に座り、独り言ちる。
膝に肘をついて、自分の頬を触った。
その指は驚くほど冷たくて、震えている。
― 実習生なので短い間ですが、お薬の治療を手伝わせてください。一緒に…。 ―
一緒に、何だ？
一緒に何をすると？
実習生には荷が重い、と判断した先生が後ろから『そうですよ！一緒に頑張りましょう！』と。
あ、それ言っていいんだ。と。
先生は結構ネガティブな人だと思ってたんだけど…やはり患者さんの前ではそうではないんだな。
えっと…何を考えていたんだったか…。
「Aちゃん！おつかレーフト！！」
「…十四松さん…！」
考えが煮詰まって、思考停止の間際。
背中から太陽のような声が降ってきた。
「元気ナイター！飲み物もってきたよ！！麦茶！！」
「…！あ、ありがとうございま…」
十四松さんが麦茶を差し出す。
ありがたい、とそっと手を差し出したその時…
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ちよ(プロフ) - イラさん» イラちゃん…！ありがとう…！ほっこりしてくれたならよかった…！でもこっからは原作ネタの六つ子話とかも入れていく予定だからねｗｗ応援本当にありがとう！ (2016年10月22日 21時) (
レス) id: 7980a9d63a (このIDを非表示/違反報告)
イラ(プロフ) - お久しぶりに来たけど相変わらずほっこリする小説だよ〜！！人の温かみや辛さがひしひし伝わってきたよ！！ゆっくりで良いから頑張ってね！ (2016年10月22日 16時) (レス) id: 1dff651d8b (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - わあ”！さきさん！！どんぴしゃですね！！笑 現役薬学生さんにコメをいただけるとは…！本当にありがとうございます！共感ほんとありがたいです〜><//(実習はもう終わられたのでしょうか(/ω＼)) さきさんの大学生活も心の底から応援しております…！ (2016年10月17日 23時) (レス) id: a6e972599e (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - (実際プロタミン聞かれたときに心臓が体外に吹っ飛ぶかと思ったよね…) (2016年10月17日 23時) (レス) id: a6e972599e (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 私某私立女子大の薬学生なのですごく共感できます！これからも頑張ってください！ (2016年10月17日 22時) (レス) id: 1e3e119e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちよ | 作成日時：2016年9月19日 20時
