第24話 ページ28
こつり、こつり。
恐怖はいつだって、静かに近付いてくる物だ。
「死を惧れよ」
倒れた彼から真っ黒な影が引き抜かれる。
「弑しを惧れよ」
尖った先端から、ポタポタと赤黒い液体が滴り落ちる。
「死を望む者、等しく死に。望まるるが故に____ 」
コホ、という咳によって言葉は途切れ、底無しの闇は消えた。
私は、敦君を庇う様に立ち真っ黒な死神を思いきり睨み付ける。口角をあげたら、ほら完璧。
「わあ。真逆、君をもう一度見る日が来るとは…今日は厄日の様だ。」
最高の挨拶である。しかし、無愛想な彼は無視して続けた。
「お初にお目にかかる。僕は芥川。この娘と同じく、卑しきポートマフィアの狗」
再度、ゴホゴホと苦しそうに咳き込んだ彼に耐えきれない、といった様子で彼女が声をかける。
「…っ！芥川先輩！ご自愛を、此処は私1人でも……！」
その言葉は頬を叩く音によって掻き消された。
彼女を怒鳴る芥川の声など、私は気にも止めずにちらりと潤一郎君の様子を見やる。
…良かった。まだ、息はある。
そっと抱き上げて端まで連れて行き、出来るだけ身体に負荷がかからない様に横たわらせれば、死神の声。
「そこに転がるお仲間は、いわば貴様の巻添え。」
「え、」
狼狽える彼に言葉をかける。
「敦君、敵の戯言に騙されるな。仲間に傷を付けた相手の言う事など、信じなくて良い。」
「ふ、貴様こそ。裏切り者がふざけた事を。人虎、いいか？貴様は、生きているだけで周囲の人間を損なうのだ。」
「聞くな！敦君！！」
そんな声すら、もう彼には届いていないようだった。
「ねえ、早く立って…！！」
そう言ってそちらに駆け出そうとした彼女の足は横から放たれた弾丸を反射的に避ける事で止まる。
急所を狙ったのであろうその弾は、私の左腕を撃ち抜いた。
真っ白なシャツに映える赤を見つめながらも、ふと。どうでもいい事を思い出す。
確か、短機関銃の弾速は秒速300〜400mだった筈。
(…避けれる訳が無い。か、)
「…邪魔をしないで貰えるかなー。見目麗しいお姉さん？」
にこり。そう効果音の付きそうな笑顔を向ければ、彼女は顔を思い切り歪めた。
「樋口です。…その台詞、そのまま返しますよ。先輩の邪魔はさせない！！」
「えーっ！ありがとう。私ってそんなに綺麗かなっ？」
赤く染まった頬に片手を当てて小首を傾げる彼女に樋口はもう一度、銃口を向けて睨みつける。
「違う！後者の方だ！！」
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作者名：じゅき | 作成日時：2016年6月29日 20時
