第163話 ページ24
それから刀身に拭紙を優しく滑らせる。
すると、刀身をまとっていた霊力が、さらさらと剥がれ落ちてゆく。
その霊力は歪で淀んで濁っていて…
…それでいて、酷く温かい。
そう。この霊力は──五虎退の虎を閉じ込めていたあの霊力と、同じだ。
古い油を拭き取り、打ち粉を満遍なく割れ物に触れるように叩き込む。
それを新しい拭紙で拭き取れば…今回も手伝い札のおかげで、たった一回の手入れでも、その刀身は傷一つなく輝きを取り戻した。
けれど、まだ終わりではない。
この加州清光は、顕現が解かれている。再び、彼を目覚めさせなければならないのだ。
修繕が終わった刀身を柄に戻して納刀し、それを両手で持って掲げる。
そして先ほどの威圧とは随分違う、柔らかくて温かい霊力を言葉に載せた。
「──"加州清光"」
次の瞬間、辺りに桜吹雪が舞い、手にしていた刀がふわりと浮き上がった。
宙に浮いた刀を桜吹雪の中から延びた手が掴み取り、手の先から肩にかけて徐々に桜が散って、その姿が現れていく。
やがて、不自然に舞い踊る桜の中から姿を現したのは──
「──俺を起こしてくれたの、あんた?」
かつ、とヒールを打ち鳴らして着地すると、修行を経た刀剣男士だけが辿り着ける極の姿の加州清光が、真っ直ぐに僕を見据えてそう問いかけた。
その言葉に頷いていると、途端に手入れ部屋の障子がスパンッと大きな音を立てて開け放たれた。
「き……清光!!」
どうやら加州の顕現を察知したらしい大和守が、我慢できずに突入して来たらしい。
彼は一目散に加州に駆け寄ると、遠慮なくその胸に飛び込んだ。
「おわっ!?安定?和泉守に堀川、長曽祢さんまで!」
「なんだよ…何なんだよお前ぇ!勝手に折られやがってさぁ!!」
「はぁ〜?別に折られてないってば。
何、俺がいなくてそんなに寂しかった?」
「うっさい!!」
ニヤニヤとからかう加州に悪態をつきつつも、大和守はその胸に抱き着いたまま離れようとはしない。
後を追ってきた和泉守たちも、加州との予想外の再会に感極まって、涙ぐんでいる。
それから勢いに任せ、三振りは大和守と同じように加州に飛びつき、もみくちゃにしていた。
「お前ぇえー!生きてたのかよ!」
「僕たち、もう本当にだめだと思ってたのに…!」
「本当に、本当に無事でよかった!」
「ちょっ苦し…待て待て待て、ちょおっ潰れるから離れろ巨漢ども!!」
和泉守と長曽祢に同時にぎゅむぎゅむされたら苦しそうだな…
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月2日 0時