第161話 ページ22
「ねぇ、大和守。加州が折られたって言っていたけど…その瞬間、見ていたの？」
静かに問いかけると、大和守は胸を撃ち抜かれたように唖然とし、細切れの息を必死に吐き出しながら、言葉を混ぜた。
「は、そんなの…いや……見て、ない…
あいつ、二代目の常任近侍、だったから…
ある日、いつも二代目の傍にいたはずの清光が、いなくて…聞いたら"折った"って…」
ぞわり、と足の先から全身に向けて熱が巡るのを感じる。
…政府に記録される本丸のデータは、改ざんができない。所属する刀剣男士の数から、その霊力の量に至るまで、ただの一つも。
そのデータに、加州清光は"重傷"と記されていた。
けれど彼らは、加州清光は"折れた"と話している。
──それが示す答えは、一つだ。
「あっおい！どこ行くんだ！」
気づいたら僕は手入れ部屋を飛び出し、和泉守の制止も聞かず一目散に駆けだしていた。
次々廊下ですれ違う刀たちに謝る余裕もなく、ただ一つの目的地に向けて、必死に足を動かす。
…あの時、三日月と国広、そして五虎退は"行方不明の刀はいない"と言っていた。
それもそうだ。あの時彼らの中での"加州清光"は、すでに折れていたのだから──
僕と長義が使っている客室に辿り着くと、押し入れの扉を大きく開け放つ。
そこには、あの日蔵の地下に眠っていた、美しい蒔絵が描かれた漆塗りの刀箱がある。
大きく深呼吸をしてから、そっと刀箱のふちに手をかけた。
「お願い…開いて…！」
あの日の、開かない刀箱と耳元で木霊した"まだ足りない"という言葉を思い出し、強く懇願しながら蓋を上げていく。
すると、刀箱は──
──先日の厳然とした様が嘘のように、すんなりとその口を開いて見せた。
ゆっくりと蓋を開き切ると、絢爛に彩られた中があらわになる。
その中には…見るも無残に刃こぼれした、加州清光が納められていた。
けれどその刀身は薄い霊力で覆われており、ここまで深く負傷しているというのに、霊力が漏れ出ている様子は見られない。
そして…柄の部分に括りつけられた
「ねぇ！一体何だって言うんだよ！」
慎重に刀箱を抱え、遅れてやって来た大和守たちを振り向く。
彼らの目は僕の腕の刀箱に釘付けになっており、皆がまさか、と声を震わせた。
「どうやら…加州はずっと、ここに閉じ込められてたみたいだね」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年12月2日 0時
