遣らずの夜

Episode 02 ページ2

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　ひゅうひゅう、と風が擽るように男を撫でた。一瞬、ほんの一瞬だけ気を失っていたようで、驚愕した視界が大きく揺れる。
男が周りを見渡してみると、特に先程と代わりのない夜の街だ。童女が居ない点を除いて。腕時計を見ても針は変わっていない。アレは幻覚やあやかしか何かだったのだろうか。
男――中原中也は、この日偶々一口だけ酒を飲んでいた。元々酔い易い体質であった為に、恐らくそのせいだろうと仮定して帰路に付く事にした。




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　習慣と言うものは意識せずとも出る。中原中也は、何時も決まった時間に起床していた。今日も例外ではない。例外ではないのだが。
目を擦り、日光を浴びようと窓を開ける。此処までは恒例行事だ。然し、今朝は幾ら経ってもまるで光など感じない。冴えた目に映った視界が、その答えを導き出した。



「……んなっ」



　暗いのだ。比喩では無くて、状態を簡潔に言っただけ。まるで昨夜の街をそのまま見ているような……まるで、時間が動いていないような？
流石に二番目は無い、と思いたい。何故ならば、其のような奇妙な力は『異能力』が関係しているのが殆どだ。言葉を濁さずに言えば、面倒くさい。誰かが窓に細工をしていて、「ドッキリでした」と言う展開なら平穏この上無いだろうが、この際其れは有り得ないと勘が告げていた。兎に角、手掛かりになるものを探さなければ。中原中也は、仕事着に着替え外出する事を決めた。


「……誰も居ねえな」


　昨晩と同じ。灯火として懐中電灯を持ってはきたが、あまり意味は無さそうだ。あまりにも暗闇力が弱すぎる。



「――！」


　マフィア幹部は伊達じゃない。中原は、研ぎ澄まされたその感覚で、後方に気配を捉えた。まだかなり距離がある、此方に気付かれては居ないだろう。気配を隠していないのは矜持なのか、油断を狙っているのかは判断が付かない。何れにせよ、コンタクトを取るのは最善手と言えよう。敵意が無いのなら共に、有るのなら倒せば良いだけの話なのだから。

　道を外れ、迂回して背後から様子を伺う。背丈は子供、服装からして女。武装は無し――此処まで読み取った所で、とある仮説に彼は気が付いた。否、仮説を通り越して確信するまでにも昇っている。

――此の女、昨夜の……!!



「おい、止まれ」



　呼び掛けると、童女はひらりとスカートを翻して振り向く。と同時に、中原から溢れでる殺気に全身を震わせ、指示通りその場に硬直した。



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