それは初恋のお話

episode9 ページ9

御幸




『……好き』




ぽつりと呟いた言葉



でもその瞳は、俺を捕らえて離さない




酒の入ったその表情と、いろんな感情が交じ入った切なげな瞳に、心が大きく音を立てた





御「…ｯ」




気づけば、俺と桧垣の距離は0になっていた



スっと唇に触れた指に、赤い口紅が着いた




御「あ……ごめ………桧垣？」



咄嗟に謝ろうと顔を上げると、テーブルに突っ伏した桧垣



たぶん、いろいろキャパオーバーなんだろう



御「おーい…ひ…桧垣？」


『……A』


御「ん？」


『お願い…Aって呼んで』




震えた声




御「……A、帰ろ？」


『ﾌﾌｯ…うん』




名前を呼んだだけで、心底嬉しそうに照れ笑いするあいつ



調子狂うのは、俺の方




高校時代、尖ってばかりのあいつしか見てこなかったから


こいつが、こんなにも女の子らしいところがあるのか


今こうして、そんな一面を見せてしまうほどに、俺のことを好きでいてくれたのか











御「ねぇ、ごめん…お持ち帰りでお願いします」









『へ？』







未だに俺の言葉の意味を捉えきれてないAを無理やり背負い、家に帰る



帰る途中、眠そうだったAに、寝ろとだけ声をかけると、俺の服を握り締めたまま、眠りについた








とりあえずソファーに下ろし、もう一度声をかける



御「A、服、どーする？」


さすがにシワを付けていい服じゃない


『着替え……たい』


御「ん、わかった」








クローゼットから俺のシャツと短パンを出して渡す



さすがにまずいと思い、俺が後ろを向いて着替えさせると、物音が止む



御「A？着替え……まじかよ」



終わったと思い、Aの方を振り返ると、シャツ1枚でワンピース状態

そこで力尽きたのか、綺麗な足を投げ出して寝ていた









御「ｸｿｯ…まじかよ」









どうしたんだよ俺




キスといい、今の必死に理性抑えてる姿といい








なんだよこれ……









御「Aのこと好きみてぇじゃんかよ」

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