夏の続き

episode28 ページ28

前「御幸〜！」


沢「御幸先輩！」




久しぶりに会った一也にわらわらと集まるみんなを横目に、グラウンドを見つめる




きゅっと握り締めた卒業証書




春風の吹くこの頃



私たちは青道を去る




この全ての想いを、後輩たちに手渡して



体に駆け巡る思い出だけを抱き締めて




それぞれの道を歩く





御「久しぶり」


『大変ね、プロ野球選手は』


御「まぁな…」




ドラフトで選ばれ、プロ野球選手としての道を歩きはじめた一也


そのため青心寮を出てからの、久しぶりの再会





誰もいないグラウンドを、ただ静かに


二人並んで見つめる







この場所に立つ一也が好きだった




一也にキャッチャーフライを打つ瞬間が好きだった




みんなの汗と涙が沁みこんだ…




その夢を託したこのグラウンドが、好きだった






『なんか…ｯ』



『ちょっとｯ……さみしい…な』





今まで堪えていたであろう涙が頬を伝う





御「A…」





ゆっくり握られた手





この手に、何度助けられただろう






御「託そう…俺たちの想い全部」





『うん…ここに、置いていこう』






悔しいほどの敗戦




足掻いてもがいて、やっと掴み取った勝利




必死で腕を伸ばして




それでも届かなかった夢





その全てを託して、ここを去ろう






また、新しい季節が来る






また新しい声が聞こえるようになる






移り変わる環境






止まることの無い時間









それでも、貴方が私の隣にいる






私が貴方の隣にいる









それだけは、いつまでも変わらないように







『行こう…一也』








あの日、あの場所で観ることのできなかった






日本一の景色を観に行こう








もう、あの時間はもどらないけど






あの空は無いかもしれないけど








まだ…終わってない









『夏の続き…観に行こう』









･


END

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