３０ ページ30
ゆっくりとした足取りで近づく音が聞こえてくる。どのくらいの時間、自分がうじうじしていたのかわからないけれどきっともう夜中だ。こんな夜更けにどうしたんですか？と聞いていいのかどうなのか判断しかねる。彼はそんな非常識な人ではないだろうことは今までの行動でわかるから
「勝手に入ってすまない。なにか緊急事態かと思って来たんだが…」
「緊急事態…？」
スッピンだし泣いちゃったし人様に見せられない顔をしていることは確実なので申し訳無いけれど膝を抱えたままの姿勢で彼の言葉をおうむ返しのように返す。それはこちらの台詞だ、と言う気持ちが言葉に出てしまっていたのだろう、少しだけ苦笑した空条さんはとんでもない言葉を続けた
「アンタのスタンドが俺のところに来たんだぜ」
「えっ！？」
「怯えてるくせにぐいぐい力強く背中を押して言うことを聞かねえから何かあったのかと思って来てみたんだが…正解だったようだぜ」
驚いて顔を上げると、空条さんもすでに部屋着に着替えておりきっと寝る寸前もしくは眠りについていたのだろう。トレードマークの帽子がない。ふわふわに見える髪の毛は無造作に整えられていて少しだけ、触ってみたいななんて場違いなことを思う
「す、すみません…どうしてそんな…」
「どうして、か…スタンドの方がやはり正直だぜ。Aは少し強がりかすぎるんじゃあねえか」
「強がりって…」
彼に似合わない可愛らしい言い回しに少し笑ってしまったけれどいたって本気の空条さんはそうだと言わんばかりにこくりと頷く。生まれてこのかたそんなこと言われたことがないし、割りとすぐに弱音を吐く方だと自分では思っていたので今回ばかりは空条さんが言っていることが合ってるとは思えなかった
「ここにいる。何も近寄らせねえから安心して寝ろ」
ぼすっと大きめの音を立ててベッドに腰かけた大きな身体に不思議と嫌悪感は抱かなくて、むしろこうして頼れる人が近くにいることで言葉通り安心して眠りにつけそうな心地好さがある
「そんなこと言われると際限なく甘えてしまいそうなので…」
「アンタのワガママなんざどうせたいしたこたぁねえぜ。とにかく、明日も平日だ早く寝るんだな」
「でも、」
問答無用に明かりを消されてそのままベッドに肩を押され、眠る体勢にされる。姿は見えないけれどきっとスタープラチナだ。起き上がろうと試みても痛くはない強さでベッドに戻されてしまう。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 84人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぴーぬ | 作成日時：2021年8月22日 22時
