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「…ふふっ、」
「どうした」
「いえ、ごめんなさい…今のこの状況お茶会だなぁと思うと空条さんとお茶会という言葉の組み合わせが少しだけ面白くて」
「少しだけっつー笑いかたじゃあねえな」
その声が分かりやすく怒気を含んでいたので、笑いを隠すために俯かせていた顔を慌ててあげた。じとりと向けられる瞳にごめんなさいと再度謝ってみたけれどどうやら機嫌は直らないようでムッとした表情のまま制裁という名の元に、太い指でこずかれた額が少しだけヒリヒリする。もう彼のことをからかうのはやめておこう
*
会社のエントランスを抜けて外に出ると夏の終わりの少しだけじめっとした空気が鼻を通って体内に吸い込まれていく。先ほど仗助くんから今日は補習に出なければならないので遅くなるなら空条さんに迎えに来てもらえとメールが来ていた。仗助くんは毎日ではないが相変わらず遅くなる日は迎えに来てくれる。それをありがたいと同時に申し訳無く思う自分がいた。そして、遅くて人通りは少ないとはいえ街灯も煌々としている大通りを通ればなんということはないんだからわざわざ忙しいであろう空条さんを呼び出す気にはなれなくてそのまま帰り道を歩く
コツコツ、ヒールが高いのは苦手だけれど少しだけ背伸びして買ったパンプスの音が静かな空間に響いては闇に消える。こんなの慣れてたはずなのに、最近は一人で歩くこと自体が少なかったせいか少しだけ恐怖を感じてしまう自分に苦笑いする。いい大人が夜道が怖いだなんてとても人様には言えないな
向かい側から自転車が走ってくるのが見えてやっと人気を感じたことに少しホッとしつつ、半歩右側によける。なかなかのスピードが出ているようで小さなヘッドライトが瞬く間に近づいてくる。
「ひゃっ、え…？」
あれ？近すぎやしないか？と思った時には通り過ぎざまに身体が引っ張られる感覚。少し遅れてお尻にどすん、という衝撃が走ったがなにが起こったのかまだ理解には至らない。キョロキョロと周りを見渡してみると見るも無惨に散らばった自分の荷物とそこから財布を拾っている男の影が視界に入りやっと自分の置かれた状況に気づいた
「ひっ…」
「大人しくしてりゃあなにもしねえ。金目のもんはもらうがな」
ニタニタと嫌な笑みを浮かべた目の前の影は物取り目的のようで、バッグを漁る姿を視認はしているけれどどうすることも出来ない。ただただ身を固くして少しずつ後ろへ後ろへと手を使って後退りするので手一杯だった。
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作者名：ぴーぬ | 作成日時：2021年8月22日 22時
