028.回る ページ29
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「……杉本」
「はい……」
真っ白な進路希望調査。
それをみながら監督は探るように私の顔を見た。
いつもなら浮かれるはずの監督と2人きりの室内。
この紙切れがあるだけで気まずい空間に早変わりだ。
「………わからなくて」
「…」
「何をやりたいのか、何ができるのか、どうしたいのか」
「………去年はひどい進路希望調査出してたのにな」
去年はといえば、調子こいて
第一希望 片岡監督のお嫁さん
第二希望 片岡監督の右腕
第三希望 教師(片岡監督のいる学校)
と書いて、担任の先生をすっ飛ばして監督に怒られた。
今だって私の希望は変わっちゃいないけど、みんなが〇〇大学経済学部とかなんとか書いてる中でこんな間抜けなことを言ってられるほど私もアホじゃない。
「…去年の考えから、変わったのか?」
「監督のお嫁さんですか!?変わってませんよ!?」
「違う。教師」
「…私が教師って書いたのは、片岡監督が教師だからです」
私は真剣な監督の目からそーっと目線を外しながら苦笑いで頭をかいた。
片岡監督がもし、お医者さんだったら私は看護師になりたかっただろうし、パイロットだったら当然CA。
監督には呆れられるとしか思えないけど、私の世界はすべて、片岡監督中心に回ってる。
「何になりたいか、明確にビジョンを持って大学に行く人なんてほんの一握りだし、それが正解だとも俺は思ってない」
「…」
「行ってから見えてくるものだってたくさんあると思うから、お前は大学選べるくらいには学力もあるんだし」
「もう少し、考えて見たらどうだ」と私に白紙の進路調査票を返した。
私は「…はい」と力なく頷いて、「監督」とおずおず手を小さく上げる。
「なんだ」
「私をお嫁さんにしてくれるなんていう夢みたいなプランは……」
「ない」
「ですよねー…」
「わかってました」とごそごそカバンにしまうと、「私電車の時間あるので帰ることにします」とソファを立ち上がった。
監督も立ち上がって、みんなの練習を見に行くのかベンチコートを着ると「あぁ」と頷く。
「気をつけて帰れよ」
「はーい」
「相談があったらいつでも来い」
「……………」
教え子として、元部員として、そんな風にしか見られてないのはわかってるし、みんなにこんな風に言ってるのもわかってるけど、
顔に似合わず優しい声色で言った監督に、私はなんとなく泣きそうになりながら小さく頷いた。
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←027.唸る
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ジェシー - 続きが読みたいです、、!!作者様もし見ていらっしゃったら是非続きを書いていただきたいです!!!! (2020年6月19日 3時) (レス) id: 8f8c74e36c (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 完結になっていますが、これで終わりなのでしょうか? (2020年3月28日 2時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
空 - 今更だけど続き読みたいですッ!! (2019年3月13日 1時) (レス) id: e5333279ca (このIDを非表示/違反報告)
帰蝶(プロフ) - 更新はもうしないのでしょうか?していただけるならその日を楽しみに待ってます!!!頑張ってくださいね♪応援しています!!! (2017年4月12日 16時) (レス) id: 07fa8ea693 (このIDを非表示/違反報告)
夏乃実(プロフ) - ちかちゃーん(T_T)いきなり御幸世代終わっちゃってたから心臓止まった…私も考えたくないから多分書けないな(^^;; 麻生が切ないです。。 (2016年12月5日 3時) (レス) id: 753635ea11 (このIDを非表示/違反報告)
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