11 ページ12
意識が覚醒する。
夢の中に旅立っていた意識が、現実に戻ってきた。
ぬいぐるみになってからは、食事や睡眠、排泄などの生き物として必要な作業はしなくても良くなった。
なんせ、この身は綿と布で出来ている。
人でない、いや、生き物ですらないのだ。
不思議な領域に身を置いていることは、A自身重々承知済みである。
かと言って、眠れないという訳ではなく。
Aはふとした拍子に意識が無くなることがある。
寝ているのではなく、Aの魂が記憶を整理するために夢を見ているのではないかと。
このことを聞いてみると、ミスラからはそのような適当な答えが返ってきた。
Aはその答えに、確かに、と納得した。
なんせぬいぐるみになってから、Aは夢を見るとそれを夢だとしっかりと認識できるようになった。
例えるならば、Aの記憶が図書館だとして。その中で選んだ本をパラパラとめくり、過去の記録を眺めているような感覚に近い。
なんせ前例がないので、この現象の原理はハッキリと分からない。
それでも、懐かしい心地に浸れるこの瞬間が、Aは好きであった。
「うわっ!?」
意識を戻すと、じっと目を開けたままのミスラが視界に入った。
日はもう明けている。
世界はもう目覚めている頃であった。
そんな清々しい一日の始まりに相応しくなく、ミスラの目の下には黒ずんだクマができていた。
「ミスラ、珍しく早起きだね!」
「はあ…」
「目の下のクマ凄いじゃん!大丈夫?」
「眠れなかったので」
「眠れない?」
よしよしと目の下を撫でてやる。
ミスラはその感触に釣られるように、そっと目を閉ざした。
しかし、その後すぐに開いて、「ダメだ」と言葉をこぼした。
78人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あいねこ - 最高です。キャラクターとの関係性が素敵すぎます!素敵なお話をありがとうございます。更新楽しみにしております。 (2021年4月19日 2時) (レス) id: 650a36dc0f (このIDを非表示/違反報告)
藤李 - ぬいぐるみが主人公とは珍しいですね!とっても面白かったです!続き待ってます!o(*゚∀゚*)o (2020年4月14日 19時) (レス) id: b71c5bc041 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:星子 | 作成日時:2020年2月29日 2時