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夢だな、と思ったのはAが人の身をしていたからだ。

Aは何処か見覚えのある広場で腰掛けて、ぼんやりと空を眺めていた。
雲ひとつない綺麗な晴天だ。

明るい日差しがこの街を包んでいる。
きっと温かいのだろう。

でも、Aはその温かみを忘れてしまっている。
夢とは人の記憶に影響されて、形作るものだ。
無い記憶からは何も生まれない。
無から有を作り出せぬ魔法と同じだ。

そのため、忘れてしまった記憶に関しては、どうやら夢に反映されていないらしかった。
夢の中くらい、夢を見させてくれたっていいのに。

「ミスラ」

名を呼ぶと、隣に座っていた男が視線だけをこちらに向けた。
退屈そうな顔だ。
それが何だか面白くて、Aは笑った。

「ミスラって強い?」

「貴方たち人間よりは」

「へえ!やっぱりすごいね!」

Aの言葉を聞いて、ミスラは目をまん丸くさせた。

彼が表情を動かすことは少ない。

だが、時折Aの言葉に少し驚いたような、どう返せばいいのか分からない迷子みたいな顔をすることがある。

それがいいことなのか、悪いことなのか、Aには分からない。

「じゃあ、ミスラはどのくらい強いの?」

「結構強い方かと」

「なら、もっとすごいんだね!かっこいい!」

すると、ミスラは小さく口元を緩めた。
それは、反抗期の子供が母親に褒められて、素直になれずとも嬉しさを噛み締める姿と似ていた。

「一番強い魔法使いって誰なのか分かる?」

「一番ですか、それは…」

そこで、ふとミスラは口を止めた。

「ミスラ?」

「……Aは俺の事、すごいって言いましたよね」

「え?うん?」

「強いからもっとすごくてカッコイイと」

「そうだよ!それが、どうかした?」

さっき話した内容を反芻するミスラを見て、Aは眉を下げた。
彼の気分を害する何かを口にしてしまっただろうかと、少し不安になったのだ。

「その原理でいけば、一番強い魔法使いは一番すごくて、一番カッコイイってことになりますよね」

「そうなるかなあ」

「分かりました」

何が分かったのだろう。
Aは首を傾げる。
だが、ミスラはその疑問に答えるほど、優しい男ではない。

「それなら、俺がオズを倒せば、世界で一番強くて、一番カッコイイ魔法使いになるってことですよね」

そう呟いた声は相変わらず抑揚がなかった。

だけど、楽しげに、嬉しげに。
その翠の瞳は遠い北の空を眺めて、柔らかく細められていた。

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あいねこ - 最高です。キャラクターとの関係性が素敵すぎます!素敵なお話をありがとうございます。更新楽しみにしております。 (2021年4月19日 2時) (レス) id: 650a36dc0f (このIDを非表示/違反報告)
藤李 - ぬいぐるみが主人公とは珍しいですね!とっても面白かったです!続き待ってます!o(*゚∀゚*)o (2020年4月14日 19時) (レス) id: b71c5bc041 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星子 | 作成日時:2020年2月29日 2時

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