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｢…智？｣
おれが声をかけると、智はしゃがんで、そのビニール袋を手に取る。
｢あ。危ないよ｣
｢ごめんね、ニノ｣
｢なにが｣
ゴミになったそれを、とても大事なもののように抱いて、｢割っちゃった｣って言う。
｢せっかくニノが作ってくれたのに｣
破片を、袋越しに触ろうとするから危なくてみてられない。
｢……いいよ。もともと不格好だったんだから。新しいの買うね｣
おれの顔をちらりとみて、また袋に視線を落とす。智がふっと笑っていう。
｢ん。いい。金継ぎする。一度してみたかったし｣
｢え、金継ぎ？それって素人でも出来んの？｣
こういう、創作の話をする時、
智はびっくりするくらい大人の顔をする。
綺麗、って言うのかな。
目が、藍色に光って、口角がゆるりとあがる。
｢要は漆と金粉だろ？金粉は家にあるから…漆買いに行こう。ハンズにあるかな｣
もうそれをすることを想像してウキウキしてる。智がビニール袋を抱えたまま、うろうろとしだす。
…もともと猫みたいなやつ。
そうだよな、興味主義なんだ。この人は、できないことを数えないから。
｢…ふふ、じゃあ散歩がてらいく？まだ夕方もきてないし｣
｢うん。ね、ニノ、ハンズ行くなら電車乗るよね？駅前にパン屋出来たの、行きたい｣
｢あーあの小洒落たトコね。まだ売ってんのかな｣
｢店の前通るだけでもいい｣
猫の視界がどんなもんなのか、おれは分からないけど。
人間の智の視界も、きっとおれと同じようには写ってないと思う。
おれがみるより、空は淡くて、海は光っていて、パンの匂いにまで、色がついてるんだと思う。
｢んじゃ行こっか｣
｢うん｣
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作者名：楽斗 | 作成日時：2022年10月18日 21時
