可惜夜[気象ON] (ページ18)

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それでもおれは、かずが喜ぶ方を選んだ。
まあ別に、おれなんかのボタンをほしいという女の子もいなかった。
松本くんは制服は制服が高くて買えない家庭の人が利用するリユース店に売るんだと言って、争奪戦に勝ち抜いた女の子を、断っていた。いい人だなと思う。

おれは、かずが喜ぶ方を選んだ。
だってかずは、大事な大事な──。

「ボタンだぜ？ただの」

耳が落ちそうなくらい真っ赤になってるのを指摘しないで、松本くんが言ってたみたいにいった。

かずは、まるで宝石みたいにおれのボタンを両手の中で転がして、「ちがうよ」っていう。

何が違うの。
おれはそれを聞く勇気がまだなかった。

おれは考えるのが嫌いだし、かずのことは大事だった。

大事だから、かずがボタンを欲しがってることもわかったし、確信を得ていた。
でも考えるのが嫌いだから、かずがどうしてボタンを欲しがったのか、その意味を知りたくなかった。

かずとの距離を変えたくなかった。

多分おれのほうが先だった。
だから、かずのことならなんでもわかった。

例えば、かずの零れそうな目の色の思い浮かべたり、口元のほくろを撫でたくなる衝動に駆られた。
あの艶を含んだ声色を頭の中で何回も反芻した。

かずを思い浮かべながら、自然にズボンに手を入れようとしたことに気づいた時、自分が嫌になった。
おかしくなりそうだった。

if構文も、力学的エネルギーも、微分方程式も、エクセルも嫌いだ。
でも、本の山に置かれた檸檬の色や、豊太郎が置き去りにしたエリスの表情を想像して絵に表現することは好きだった。

京都を選んだのは、勢いだった。
東京の、かずのそば以外なら、どこでも良かった。