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こんなことになるなら、こんな歳になるまで秘密にしてるんじゃなくて、あの頃、笑い話みたいにして言えばよかった。
気づいた時にはもう笑い話にできなかった。
ふと、智の手が置かれているのを観て、上から指でなぞる。
擽ったがりの智がぴくんと体を捩らせたのに、くくっと笑いながら、綺麗な、男らしく伸びた指を擦っていく。
「かずにさ」
「ん?」
智が、おれの肩口に顔を押し付けたまま、おれに手を触られているのをそのままにして口を開く。
「………いや、まって、」
「ええ?」
珍しく智が言い淀む。
こいつが日本語下手なのは知ってるけど、思いついたままを喋るから、待って、なんて言われることはなかったんだけど。
「なに、どしたの」
振り向いて、智の顔を覗き込むと、照れるみたいに智がおれの視線から逃げる。
「んふふ、コッチ向かないでよ」
「注文多いな」
頬に手を添えると、磁石みたいにくっつく。
少し丸みを帯びてる智の頬が好きだ。
「笑わないで聞いてくれる?」
「うん」
「かずに…渡したボタンさ」
ボタン?
なんて聞き返さなくても、すぐに思い出す。
ただのボタンだぜ?と、智が言い放った、ただのボタンじゃないあれだ。
「まだ持ってる?」
なによりも恥ずかしいみたいに聞くから、「…あ、あるけど…」なんてなんにも考えずに返事をしてしまった。
したら、ふにゃりと顔を崩して、
「そっかあ」とか、笑ってるもんだから、おれは思わず智の腕を掴んだ。
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作者名:楽斗 | 作成日時:2023年3月4日 11時