検索窓
今日:6 hit、昨日:42 hit、合計:10,108 hit

お風呂 ページ48

一度目を閉じてから、博喜は司咲をまっすぐ見つめた。

「で、どうすればいい?」

「博喜さんは何もしなくていい。……私がやるから」

「そうは言ってもなぁ…。顔真っ赤だし、手震えてるよ」

頬を包んだ両手を優しく下ろされた。

「しなきゃいけないなら、俺からするよ」

電話の向こうからヒュー、という音が聞こえてきた。

「うるさいよ」

「……切る」

「だな」

今までその選択をしていなかったのが不思議なくらいだ。司咲の指が通話終了ボタンを押す前。

「基くん、帰ったら私を抱きしめて。……お兄ちゃん」

『おぉ。いいよ。なーに、司咲。甘えたくなったの?かわいい妹だなぁ』

「そんなんじゃないし」

電話の向こうで笑う声が聞こえる。

「来夢くんたちは今度時間がある時でいいからご飯でも行こうね」

『是非‼』

3人分の是の声に司咲は嬉しくなって微笑んだ。

「それじゃあね」

そう言って電話を切った。途端に司咲の心臓が大きく高鳴った。

___好いた男を助けたいだけだろう。

___好きだと認めることもできない臆病者が。

不意に調伏した霊の言葉が蘇ってきて、博喜を振り返ることができなくなってしまった。ドキドキと高鳴る心臓がまるでその言葉を肯定しているようで、なんだかそれは癪だった。

「つか」

「おっ、お風呂‼入れる。先に入って」

博喜の言葉を遮って、司咲はそう言って赤くなった顔を隠すように風呂場へ向かった。

「ち、違う」

否定するように頭を振って、司咲は浴槽を掃除した。恋なんてしていないと、言い聞かせながらお湯が溜まるのを待った。ただただ恥ずかしくて、博喜の唇に触れるのを少しでも先延ばしにしたかった。

顔を直視できなくて、その胸に基裕が忘れていったジャージを押し付けた。

「大丈夫?」

心配そうに声をかけられて、何故か焦った。

「だっ大丈夫っ!」

「やっぱり、嫌だよね。ごめんね」

「べ、別に嫌ってわけじゃ…」

「無理しなくていいよ。誰だって好きでもない男とキスするのは嫌だよ」

ポン、と頭に彼の大きな手が乗って少しだけ撫でられた。

「は、恥ずかしいだけ!嫌なわけじゃない!」

やっと上がった顔。茹で上がったかのように赤くて、博喜はその頬を数回つついた。

「早く入ってきて!」

「じゃあ、ありがたく」

博喜の背を送って、司咲はその場にしゃがみ込んだ。

恋→←目の色



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (7 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
19人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月29日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。