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呑気 ページ41

その手を取ったつばさは司咲の表情を読み取った。

「なにかいるんだね?」

だけど、それは悪意の塊ではない。ただただ嘆き悲しんでいる霊だった。

『私が視えるの?』

それは弱い霊魂だった。つばさの手を振り払って、司咲は小さく頷いた。震える両手を握って、司咲は彼女を見つめ返した。

『お願い。私の息子を助けて!あの子を置いて来てしまった。あの子に父親はいない。あの子はもう独りになってしまったわ』

必死に頭を下げる彼女は霊になっても、子どもを心配する母親だった。

「どこに、いますか?」

その必死さに何故か涙が滲みそうになって、司咲は目に力を入れて堪えた。

『こっち』

背を向けた霊について行こうとした司咲の手首をつばさが掴む。

「待って、司咲ちゃん。本当に大丈夫?」

「悪意は感じない。でも、あなたは帰って」

つばさはそんな司咲の言葉に首を縦には振らなかった。

「できない。俺もついて行くよ」

「ダメ。危険かもしれないじゃない」

「だったら尚更、1人でなんて行かせられない」

「なんでっ!」

「好きな女の子を1人で危険な場所になんて行かせられないでしょ」

静かに、淡々と。言ってからハッとつばさは司咲の手首を掴んでいない方の手で口を塞いだ。

「は?」

「俺も行く」

「ダメだって!」

つばさの手を振り払おうとして、出来なかった。男と女。単純な力では到底敵わないのだと今思い知らされた。

「……行かないで」

ギュッと、更に力を入れて手首を握られる。

「……離して。帰る」

振り返ると、女の霊が俯いている。その輪郭を象るようにドス黒い何かが滲み出ていて、司咲は慌ててつばさを突き飛ばした。

予想外の衝撃に、つばさは簡単に尻餅をついた。

「禁!」

簡単な結界を張る。

『あなたも、見捨てるのね…‼』

髪が意志を持っているかのように蠢いた。結界は張ったが、いつまで保つか分からない。調伏するしかないかもしれない、と冷や汗が頬を伝った時。

「あれ、司咲ちゃん。何してるの?」

司咲からすると、呑気な声が聞こえてバッとそちらを振り向いた。笑顔の博喜がいた。彼は今兵庫に行っていたはず。

「なんでここに⁉」

「仕事で少しだけ戻って来たんだ」

女の霊がニタリと笑った。ハッとして司咲は博喜の方に手を伸ばした。

「逃げてっ‼」

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作者名:星ノ宮昴 | 作成日時:2021年6月29日 15時

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