見果てぬ夢ー中原中也 ページ36
テレビやパソコンの画面に手をそっと当てる。映像でしか映し出されない彼を見て、私はただ画面を見つめ、ひとりで泣いた。
「ぁ、ぃ・・た・・・ぃ」
部屋にはたったひとり、自分だけ。声は震えていた。
「あいたいっ」
もう一度、その言葉を口にして、私はついに涙を流して、発狂するかのように泣いた。
会いたい、会いたいと。この世界を捨てても、彼に会いたい。どうして彼を好きになってしまったのだろう。好みでもないのに、どうして彼なのだろう。
たった一度でもいい。もしも願いが叶うなら、彼の傍に行きたい。それがどんなに危険であっても、たった一度、名前を呼んでくれるだけでいい。その手に僅かに触れるだけでもいい。
たった一度だけの願いが、どんなに願っても叶わない事を知っているのに、夢の中だけでもいいと思って枕を濡らす日々。
夢の中だけでも叶って欲しいのに、叶ったことなんて一度もない。それがこんなに辛いなんて思いもしなかった。
恋がこんなに苦しいなんて考えた事もなかった。
「ちゅ、う・・や」
存在し、存在しない彼の名前を呼んで、また涙が溢れて、泣いて、泣き疲れて、私は同じ日々を繰り返すのだ。
夜が終わり、朝が来る。目を開けて、私はまず絶望するのだ。夢を見なかった。目覚めたすぐには夢の大半は覚えている。だが覚えていないのは、きっと夢を見なかったことになる。
私は枕元にペンとノートがある。夢日記だ。けれど夢日記は毎日書いてない。彼が夢に現れた時だけ書くようにしているのだ。
だが夢日記の内容は雪のように真っ白なのだ。まだ、何も書いていない。それはこれまで彼と夢で会った事が一度もないと示してるのと同じことなのだ。
「・・・中也」
好きになってしまった彼の名前を目覚めたばかりのこの身体と心で呼ぶ。見える天井に手を伸ばした。もしかしたら、この天井から彼の手が伸びて、この腕を、手を掴んでくるんじゃないかと、そんな妄想と期待をして、そしてそんな事はないと改めて思うと私は暗然として涙を呑んだ。
こんな生活をもう何年も続けていると流石に叶わない恋だと諦めがつく筈なのに、私の心は諦めずにずっと想い続けていた。もう何年目だろう。
私はずっと、苦しんでいる。とそんなこと家族や友達に言ったことも話した事なんて一度もない。
まさか、彼に恋してます。なんて言ったら頭可笑しいんじゃないかと言われるし、きっと思うかもしれない。いや、きっと思うのだろう。たった次元が違うだけで。
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作者名:翼 | 作成日時:2016年6月25日 8時