キズナ ―TRANSMIGRATION PRAY― ② (ページ14)

今日:23 hit、昨日:2 hit、合計:21,155 hit

高麗国１１ページ14

.

「いやだ!!」

翌日の早朝、春香(チュニャン)の大きな声が庭まで響き渡った。

「私も領主(リャンバン)の所へ行く！」

「領主(リャンバン)の城には秘術が施してあるしね、危険だよ――」

「承知の上だ！一緒に行く!!」

「ん――、困ったなぁ」

そうは見えないファイと彼の頭の上に乗ったモコナがちらっと黒鋼に視線を向ける。

「俺ぁ、ガキの説得はできねぇからな」

その視線を逸(そ)らすようにふいっと黒鋼は顔を背ける。

「照れ屋さんだから――？」

そんな黒鋼を見て、ファイはにゃはっと笑んだ。

「テレ屋さんー」

『そのうえ、恥ずかしがり屋だぞ』

モコナとAはお互いに見合って楽しそうに笑んだ。

びきっと黒鋼の眉間に皺が寄る。

「行って領主(リャンバン)を倒す！母さん(オモニ)のカタキをとるんだ!!絶対、一緒に行くからな！いいだろ!?小狼!!」

瞳に涙を溜めながら、春香は強く小狼の両腕を掴んだ。

小狼はその手をスッと優しく振りほどく。

「だめです。ここで、サクラ姫と待っていて下さい」

さくらと春香に背を向け、小狼は足を前に踏み出した。

その後を追うようにファイと黒鋼も歩き出す。

「………小狼君……」

「私が子供で、たいした秘術も使えなくて……足手まといだからか」

春香はぐっと拳を握り締め、自分の力不足に唇を噛み締めた。

「……違うと思う」

そんな春香をさくらは優しく包み込むように抱き締める。

『あれはあやつなりの優しさだ。…春香よ、カタキなどというものに囚われてはならぬ。そんなことよりも、お主にはお主のやるべきこと、守るべきものがある筈だ』

Aは屈(かが)んで春香の頭を優しく撫でるとふわりと笑んだ。

「…っ……」

その笑顔が一瞬、母さん(オモニ)と重なって見えた気がして春香は声を失う。

『どうした？』

急に目を擦(こす)り出した春香を見て、Aは首を傾げた。

「いや…何でもない」

『そうか。ならば…』

春香から手を離すと、Aは小狼達の徐々に小さくなっていく後ろ姿を見つめる。

「行くのか？」

『ああ』

Aは立ち上がると春香に背を向けた。

「…な…いで…れ」

『…』

「――死なないでくれ！」

Aの後ろ姿に向かって春香が叫ぶ。

『…それならば大丈夫だ。私はまだ、…死ぬわけにはいかぬからな』

Aはフッと笑みをこぼし、振り返らずにヒラヒラと手を振って小狼達の後を追った。