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何だか別人みたい。
アイドルとしての宏光を太輔のシンメとしてずっと見てきて、偶然が重なって夜を共にするようになって。
色んな顔を見てきたつもりだ。
ある程度は、宏光という人間を把握しているつもりだった。
なのに。
昨日と今日は、本当に知らない人みたいだ。
しかもそれが、何処か私に都合がいいように勘違いが出来てしまいそうな変化。
言ってはいけないと思っていた言葉を告げても、受け入れてくれそうな……そんな淡い期待を抱かせる。
でも。
それでも。
簡単には口に出来ない。
喉の奥で凍り付いた言葉達を音に乗せて形にすることは、恐怖に近い。
宏光は、そんな困惑する私をタクシーに押し込み、その場で躊躇うように固まった。
「…………。」
眉間に皺を寄せて、少しだけ苦しそうに瞳を歪めて。
ただ、私を見つめる。
私は何も言えない。
何かを言おうと思うのに、何ひとつ言葉は音にならなくて。
ただ、その燃え盛る焔を瞳に宿したままの宏光を見つめ返した。
「お客さん、乗らないんですか?」
タクシーのドアを開けたまま、手をかけて固まる宏光に運転手が声をかける。
それはそうだ。
ドアを開けたまま、片方が乗りもせずに二人共が固まっているのだから、客観的に見れば不審だろう。
「っ、」
弾かれたように肩を震わせた宏光は、一瞬の逡巡の後にそのままタクシーに乗り込んだ。
そうして宏光が告げた行き先に向かって、夜の闇を滑るように走り始めるタクシー。
静かな社内。
等間隔に並んだ街灯が明滅するように、宏光を夜の闇の中に浮かび上がらせる。
何も言わないその横顔は、確かに月日を重ねた大人の男の横顔だった。
不意に宏光の手が動いて、私の手に触れて。
ゆっくりと指先が絡む。
それは、ひどく熱くて。
ただ、熱くて。
その熱に煽られるように、どうしようもないほど鼓動が暴れていく。
もう、本当にどうしたらいいのかわからない。
宏光の態度と温度に翻弄されて、どんどん思考が鈍くなるのを感じていた。
宏光が、静かなトーンで『次の交差点を右へ』とか『次を左に』とか、そんな説明をしていたけど、何処へ向かっているのかを考える余裕は既に無かった。
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とーか(プロフ) - にかみつばさん» 言葉にしてくださることが、また更に嬉しいです♪私は、みっくんにも少し狡くて不器用なところがあるだろうなって実は思ってまして…Masqueradeの宏があまりにも格好よすぎたので、違う彼を描いてみたかったのも本音です(笑)コメントありがとうございました♪ (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさーん♪一つ一つに丁寧にコメントくださってありがとうございますー♪そういう率直な感想とても嬉しいです(*´∀`)♪もちろん、好みだと言ってくださるコメントも嬉しいのですが、自分の中の彼は自分が感じるものなので色んな彼がいて当たり前で、それを (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 1人の人を一途に愛する、優しい優しい北山くんで、読んで良かったなと思いました。シリーズで続きを書いて下さりありがとうございました。またとーかさんの作品を読めることを楽しみにしています。長々と失礼いたしました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 兄組話、Masqueradeの北山さんが好きでこちらも読ませて頂きました。正直私の想像する北山さんと違いすぎてイメージや感情移入しずらく途中で断念してしまってました。でもとーかさんの作品だしどうしても気になりラストまで読ませて貰いました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - ふみさん» お姉……。ああ、もう他の人とは違う目線でニヤニヤしてるのが目に浮かぶわぁ……┐(´д`)┌やめれ。生暖かい目で見んなーっ!!!(笑) (2019年9月9日 20時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とーか | 作成日時:2019年8月24日 12時