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……そうか。
何だかんだ抱き合っていたから、何を話そうかなんて考える必要もなくて。
それに宏光にとって必要なのは私の身体だけだと思っていたから……気持ちを隠すことで精一杯だったんだ。
今は……?
もう、隠さなくても……いいの……?
そんな気持ちで宏光を見れば、宏光は少しだけ困った顔をして、でもひどく甘い瞳で私を見ていた。
ドクンッ───────────。
何……その瞳……。
そんな瞳で、見ていたの……?
私を!?
それは糖蜜のような、極上の甘さが溶け込んだ瞳。
その瞳に煽られて、身体の奥のオンナが甘く疼いた。
だってそれは。
その見たことのない瞳の奥で、欲望の赤が揺れているから。
私は、色んな意味で限界だった。
いっぱいいっぱいだった。
だから、気が付かなかった。
目の前で私を甘く見つめる宏光の脇に置かれたワイングラスの中身の減りが異常に早かったことに。
「帰るか……?」
季節の素材をふんだんに使って、細やかに作られた王道フレンチをデザートまで楽しんだ後、瞳を細めて宏光が言った。
眦に少しだけ朱を宿して、焼けつくような瞳が私を捕らえる。
それは、決して『帰る』なんて言えない瞳で。
宏光……?
その瞳で揺れる葛藤。
隠しきれない欲がありありと浮かんで。
けれど、私をこのまま帰そうとしているのも本音なのかもしれない。
迷って……いるの……?
何も答えない私の手を徐に握って、宏光は店の出入口に向かって歩き出した。
「宏光、会計っ、」
「済んでる。」
!?
いつの間に!?
ある程度いい年齢になって、それなりに経験はある。
もちろん、男性と二人で食事に行ってご馳走してもらった経験も。
だから、こう言ってはなんだけれど……わかるのだ、基本は。
男性が席を立った時に、会計を済ましてきたんだなというのが。
当然、それには触れないのが大人の女のルールだ。
けれど、今夜は。
呆れるほどスマートにそれをされて、私が本当に気が付かない間に済まされた。
その慣れた感じにチクリと胸が痛むのに、握りられた手がどうしようもないほどの熱を伝えてきて。
振り向くことなく私の手を引くその背中に、どうしたらいいかわからなくなる。
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とーか(プロフ) - にかみつばさん» 言葉にしてくださることが、また更に嬉しいです♪私は、みっくんにも少し狡くて不器用なところがあるだろうなって実は思ってまして…Masqueradeの宏があまりにも格好よすぎたので、違う彼を描いてみたかったのも本音です(笑)コメントありがとうございました♪ (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさーん♪一つ一つに丁寧にコメントくださってありがとうございますー♪そういう率直な感想とても嬉しいです(*´∀`)♪もちろん、好みだと言ってくださるコメントも嬉しいのですが、自分の中の彼は自分が感じるものなので色んな彼がいて当たり前で、それを (2020年5月28日 12時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 1人の人を一途に愛する、優しい優しい北山くんで、読んで良かったなと思いました。シリーズで続きを書いて下さりありがとうございました。またとーかさんの作品を読めることを楽しみにしています。長々と失礼いたしました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 兄組話、Masqueradeの北山さんが好きでこちらも読ませて頂きました。正直私の想像する北山さんと違いすぎてイメージや感情移入しずらく途中で断念してしまってました。でもとーかさんの作品だしどうしても気になりラストまで読ませて貰いました。 (2020年5月28日 2時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
とーか(プロフ) - ふみさん» お姉……。ああ、もう他の人とは違う目線でニヤニヤしてるのが目に浮かぶわぁ……┐(´д`)┌やめれ。生暖かい目で見んなーっ!!!(笑) (2019年9月9日 20時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とーか | 作成日時:2019年8月24日 12時