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「どこへ行くんだい」
咄嗟に腕を掴んだ
包帯の巻かれた手首が目に付く
彼は怒っているらしいが、私はなにか言葉を間違えたのだろうか
「帰るんですよ。いつまでもいたって迷惑でしょ」
「そんなことはない。それに、君はまだ活発に動いて良い身体ではない」
見た目以上に衰弱しているはずだ
医者として、放置できない
「問題ないってば、ったく…」
「携帯電話も財布もない状態でどうやって帰るんだい」
「…」
図星を突かれたのか押し黙る
顔を背け、虫のような小さい声
「…あ、……って…よ」
「…今、なんて?」
「じゃあ、あんたが連れてってくださいよ!!」
「えっ」と思わず間の抜けた声が漏れる
連れてって、ってそれはつまり
「家、行っていいのかい」
「しょうがないでしょそれ以外手段がないんだから」
といいつつ顔が赤い
熱かと疑ったが、流石にその理由を察せない程野暮ではない
全く、愛おしい
本当は私以外には渡さないと言いたいのだけれど…そんなことを言っては、君は私を本当に嫌いになってしまうかもしれない
「…わかったよ。行こうか」
嫌われることがこんなに恐ろしいことだなんて
君に会うまで、知らなかったんだ
_
彼の自宅は、思っていたより普通だ
割と新しいきれいなアパート
送るだけかと思いきや彼が「お茶くらい出しますけど…」なんて可愛いことを言うものだから、流されることにする
そういえば
「理津君、鍵は」
「…あ」
彼も案外抜けているところがあるらしい
大家さんに合鍵を受け取りに行くと、彼はどういうわけか荷物を持ってやってきた
どういう意味か理解した
つくづく癪に障る
「…ま、あ。携帯電話も財布も戻ってきたし」
「理津君その携帯電話は一度解約したほうが良い。どんな細工をされているか分かったものではない」
「大丈夫でしょ」
能天気な返事に苛立つ
どうしてそう信用できるんだ
君にあんなことをしたというのに
手首を見つめる
どうしても、自分と乱数を比べてしまう
あんなことがあっても尚、彼の方が圧倒的に理津の信頼を勝ち得ているという事実に打ちのめされる
「先生?」
「今行くよ」
私と理津君の間にあるのは、未だ肉体関係だけ
嫌われたくないと慎重に言葉を選び
結局、他の誰かに奪われでもしたら…
私は、どうなってしまうのだろうね
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無月 - 2024年から失礼します。1年前にヒプノシスマイクにはまり(遅い)、寂雷先生を好きになったので読んでみましたが、2人の心情表現がリアルすぎて本人に話を聞いて書いた実話かと思ってしまうほどでした。画面も顔もびちょびちょです。ありがとうございました。 (1月11日 10時) (レス) @page42 id: 1dba4fa267 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - ぴみゃ@ごりらーさん» ありがとうございます。作中では経過時間を長めに取り、主人公と先生の中の深まりをじっくり書くことができました。僕も二人の距離感、書いていてとてもグッときます。改めて、完結までありがとうございました (2019年5月8日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - 遅くなりましたが完結おめでとうございます!主人公くんが、凄い好きで、話も深く大好きな作品で、更新が凄く楽しみでした。先生と主人公くんの会話やお互いへの思いにとても癒されました (2019年5月7日 19時) (レス) id: a355684bde (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 鉄壁炭酸カルシウムさん» 主人公は元々こんなツンデレ属性ではなかったのですがどういうわけかこんな猫系に…。わあ、嬉しいコメントありがとうございます。機会がありましたら今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 迷い犬さん» 返信遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。二人がお付き合いした後のお話でしたがなんだかんだ書いていて一番楽しかったです。最後までありがとうございました (2019年4月28日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2019年3月31日 0時