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44: 雪切の世界 ページ5

「…。」
「ええと…。」

 雪切が疑うような眼差しを向けると、独歩は営業スマイルで雪切に話す。

「寂雷先生は急患が入ってしまったから、その…。」

 もごもごと話すその人をじっと見つめると、突如として横から金髪_伊弉冉一二三と言っていた人_が顔を覗かせる。

「だーかーら、俺らが先に来たってわけ!腹減ってんだろ?おれっちが特製ディナー作ってやっから、上がってもいいか?!」
「あ…え、と……。」

 勢いに押され適当に頷くと、にかっと笑う。一度閉め、チェーンを外し、再度開く。


この人、顔、きれい。


 一二三の顔をまじまじ見つめる。綺麗な肌、髪。あの人とはまた違った美しさがあった。


「おっじゃましまーっす!!」
「…お邪魔します。」


 ずかずかと入っていく一方と、控えめに入る一方。隈の酷い方がおどおどしながら言う。


「あ、ご、ごめんね。あいつはああいうやつだから。気にしないで。あ…俺はこういうも__いや、観音坂独歩。よろしく、ね。」


 優しそうな人だと思った。目を逸らして、小さくうなずいた。



 どうやら仲間というのは本当らしい。伊弉冉は慣れた手つきでキッチンを漁る。どこになにがあるかわかっているようだ。
 観音坂は調理は伊弉冉に任せダイニングチェアーでくつろいでいる。


  「ごめんね、今から夕食作るからね。」
  「雪切君、夕食できたよ。席に着いて。」


 毎日繰り返されていた。誰かのご飯を食べることは、なんだか不思議なことで。
 けれど__


いつまでもそれでいいのか?


 毎日作ってもらって、それを食べる。それはまるで鯉に餌を与えているような…。
 そう、まるで餌付けされているようだ。


 じっと伊弉冉の手先を見つめる。すると相手もその視線に気づいたようだ。


「ん?どったの?」

「え…あ、いや…。」


 野菜を刻む包丁の音。目が合って、逸らしたが、また見てしまう。伊弉冉は面白そうに笑った。


「ゆっきーもやってみる?」

「へ……ゆっ、きぃ…?」

「そ。ユキリだからゆっきー!ほらほら、こっちおーいで!」


変な名前で呼ばないでほしい…。

 そう思いつつ伊弉冉に近づくと、人参とピーラーを渡される。どうやらやれという事らしかったので黙って作業を行った。が、
 どうやらこの人は黙ることができない類の人間らしい。



「なあなあ、ゆっきーってさ!!___」

45→←43: 観音坂独歩の世界



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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時

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