77: 神宮寺寂雷の世界 ページ38
彼の背を押したのは、彼の妹だった。
両親は妹にはめっぽう甘く、妹も両親を愛していた。
母親が逮捕され、家庭が崩壊したことを、彼女は兄のせいにした。
15歳だ。
事情を呑み込むには幼い。誰かの所為にしたかったのだろう。
それでも…＿＿＿
外からの光が差し込んでいるはずなのに、その部屋は異様な暗さであった。
病室の椅子に座り、神宮寺寂雷は両の手を握り額に当てた。
室内にいたもう一人の白衣を纏った男は、一通り寂雷に＿横たわる彼の＿容態を告げると、一礼してその場を去った。
天才医師などと呼ばれる彼に今の状況を説くなど、愚行に思えた。
しかし、それでも医者としての責任があったのだ。
たとえそれが、どんなに残酷でも。
たった一人取り残された寂雷は、ずるりと拳から額を落とし、自らの膝に顔を寄せる。
たった独り、取り残された寂雷は、握っていた両の手で頭を抱えた。
「……あぁ。」
世界中の絶望をかき集めたような嘆息だった。
横たわる彼＿汪海雪切＿は、深く目を閉ざし、口からは数本の管が通されている。
彼の脳幹は機能が失われている。
一般的には、脳死と言われる状態だ。
自発呼吸ができない。
光を当てても瞳孔が反応しない。
心臓は動いている。
＿＿それでも、持って数週間というところだろう。
「……私は＿」
あの時、手を握っていれば、もしくは…＿＿＿。
いや、今更なにを考えたって無駄ごとだ。
寂雷は重い頭をあげ、彼の顔を見る。
なんてことはない。ただの寝顔だ。
もう少し待てば、目を覚まして、いつものように笑ってくれる気さえする。
しかし、そんな可能性が万に一つもないことは、寂雷自身が一番よくわかっていた。
植物状態と違い、脳死は＿
＿＿回復する可能性は無く、二度と元には戻らない。
ああ、神様。
貴方はなんてひどい人だ。
彼が、なにをしたというのですか。
寂雷はまた、手で顔を覆う。
もう、二度と……。
彼の瞼は開かない。
あの琥珀は、失われてしまった。
「どうしろと、いうんだ……。」
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (
レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ＠ごりらー(プロフ) - え……好きです……（） (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Last | 作成日時：2018年12月16日 21時
