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沸き上がる感情に、名前を付けることができない。


 悲しみと、虚しさと、不甲斐なさと、憤りをぐちゃぐちゃに混ぜたような感情。


「私は……。」


 言葉が果実のように落ちる。

 涙すら出ない。

 胸の奥で吐き戻しそうな感情の荒波が寂雷の喉を目一杯圧迫している。





私は…__


こんなことのために、今まで研鑽を積んできたわけではない。

私は彼を救いたかった。

人を救うための手だ。

なのに


……なのに…




救いたいときに、一番大切な物すら救えない…。




なんて、無力。


目を閉じれば、あの時の君が離れない。


会えて、よかった。なんて。


なんてひどい呪縛だ。





 目を閉じる。深く、深く息を吐く。

 あの時、首に巻いた手を…__。そんなよこしまな考えを噛み殺す。





結局私は、君に、何一つ……。






 「貴方で終わりたい」






 顔を上げた。彼の顔を見る。もう二度と、覚めない瞳だ。





「……私は、君に、何一つしてあげられなかったね。」





 自虐的な微笑みも、白い病室に溶け出していく。

 _たった一つ、脳に過る。




 脳死は、脳死判定を行わない限り、死とは認められない。だから__







「酷い話だ。私は…君の……」




 唇が震える。

 残酷で、無慈悲な選択肢だった。






「…君の、最期の望みを、叶えられてしまう。」






 貴方で終わりたい。





君がそう望んでも、私は君に生きていてほしかった。





 寂雷は、目を開く。


 医者の眼だった。


 寂雷は、覚悟を決めた。





こんな決断、したくはなかった。





 脳の裏側で、今までの軌跡が_彼と過ごした全てが_まるで一本の映画のように過ぎて往く。

 泣き顔も、笑顔も。

 すべてがただ尊く、愛おしき日々。




「…もう、逃げないよ。」





 寂雷は、彼に伝えたかった言葉を吐く。

 ずっとずっと、秘めていたものだ。

 結局誰にも_届けたかった人にも_聞かれなくなってしまった。

 そんな、狡くて曖昧で、しかしこの世界で最も美しい言葉だ。





「私はもう、ずっと前から、君をただの患者だなんて思ってはいなかった。」








.








「私は、君を___。」

後書→←77: 神宮寺寂雷の世界



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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時

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