63: 外の世界 ページ24
雪切は刃が食い込むことも厭わず、前から後ろへと振りかぶった。
ゴス、という鈍い衝撃。
頭がズキズキと痛む。
「ンぎァッ!!?」
男の腕が鈍り、雪切は地面に完全に足が着くのを待たず駆けだした。
世界がスローモーションのようだった。
音が、時間が、世界が彼を置いてきぼりにしたような感覚。
首筋に包丁の刃が再度ぶつかり、痛みが走ったが関係ない。
「ッじゃくら__」
手を伸ばした。
遅すぎる時間の流れに逆らって、必死に体を動かした。
重い、重い重い重い重い___
全身が石像になったようだ。それでも、必死に手を伸ばした。
届け、届け、届け___
見えた。
目の前で、雪切を迎える人を。
その隣で鬼の形相で怒鳴り散らす人を。
それに合わせて一斉にこちらに飛び掛かる人たちを。
踏みしめるアスファルト。
転びそうになる体を必死に支える。
あと少し、
「ンのガキゃァああああああ!!!!」
上から押さえつけられたような衝撃。
体が一瞬、時を忘れ、一泊遅れて、指が絡まる。
勢いそのままに飛び込んだ。
「___!!」
時が、動き出した。
「雪切君……雪切君!!」
「…じゃ、じゃくら___あ。」
寝ぼけていた細胞が冷静さを取り戻す。
体内に、本来あるべきではない異物を感じる。
熱い。
背中右脇腹から発せられた痛みの信号が、やっと脳に行き届き、遅れて激痛をもたらした。
焼けつくような痛み。間違いなく5本の指には入るだろう。
今の一瞬で相当疲れたのだろうか。息が荒い。ひゅ、という下手なラッパのような音が喉の奥から発せられる。すきま風のような呼吸。
雪切の背中の右脇腹には、男が持っていた包丁が刺さっていた。
「先生ッ、救急車呼ばせたぞ。」
「っ…ああ。」
ドクドクという心臓の音が耳元で聞こえる。全身が脈動を繰り返している。
雪切は寂雷にもたれかかった。
目が、回っている。吐きそう。
視界が霞む。どうにかなりそうだ。
寂雷が何か言っているようだが聞こえない。
全身に脂汗がにじむのを感じ、チカチカする視界を閉ざした。
「……___」
「おい先生、コイツ…!!」
「…気を失っているだけだよ。」
包丁を抜けば大量出血に繋がる。
寂雷は神に祈るが如く救急車を待った。
雪切を支える寂雷の腕が、じわじわと紅く染まっていく。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時