62: 神宮寺寂雷の世界 ページ23
「タイムアップだ。先生、これ以上は待てねえ。」
そういうや否や腰にぶら下がるマイクに手を伸ばす左馬刻。
「動くんじゃねえぇ!!おい、い、い、いぃのか!?マジでころ、殺すぞぉ!!?」
薬に溺れている目は濁って魚のようにぎょろりと左馬刻と寂雷を交互に見る。その表情は怯えている。元々左馬刻の組の構成員という事もあり、左馬刻の恐ろしさを知っているためだろう。
理性的な判断は既に放棄している。雪切が無事で済むとは思えない。
「前にも言ったが彼は私の患者だ。これ以上傷つけることは許さないよ。」
「先生よぉ、助けてほしいとも主張しねえ奴を助ける程俺は優しくねえんだよ。」
「もとはと言えば巻き込んだのは君たちの方だろう?その発言はいただけないね。」
真剣な寂雷の表情に左馬刻は参ったという風に手を鈍らせる。
とはいえこのままこの状態を維持していても何も変わらないだろう。雪切が少しずつ弱体化していることは明らかだし、首の切り傷からは血が流れ男の腕を汚している。
「どーすんだよ、野郎完全にラリってやがる。ああなるともう力の加減忘れて動く…下手すりゃアイツ、死ぬぜ。」
「わかっている…。」
声が焦る。
殆ど脱力している雪切とだんだんと緊張からか汗を流し口の端に泡を溜めている男を交互に見据える。
せめて彼が何かしらのアクション起こしてさえくれれば…。
雪切がこちらを見ている気がして心臓が跳ねる。嫌な汗が背筋を伝った。朧げな瞳はもう限界が近いのだろうか、今にも壊れてしまいそうだ。
ああ、この緊張感は、いつ以来だろうか。
人の死を何度も看取ってきた。
小さな命も、年老いた命も、失ってしまえば同じ死だ。
なのに、
彼を失うことに、今までのなにものにも代えがたい苦痛と恐怖を感じている。
__雪切君。
目が合う。じっと、死んだ瞳でこちらを見ている。
助けてとも言っていない。ただ、見ているだけ。
息を詰まらせて、必死になった。
彼を救いたい。
いつだってそうだ。私が行ってきたことは、いつだって彼のためじゃない。
ただ、彼を救いたい自分自身のために。
__そう言ったら、彼はどんな顔をするだろうか。
「ンぎァッ!!?」
下品な叫び声がこだまする。刮目していた。
男は顔をおさえ、指の隙間からぎょろりとその原因を睨む。
迷いはない。
ただ必死に、手を伸ばす。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時