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数日後のことだった。
雪切はいつも以上にそわそわしていた。
サプライズ感でも出したいのだろうか寂雷は「今日人が来る」という情報しか残していない。名前も、どんな人かも伝えられていないのだ。
「やだな…。」
定位置と化したソファで一人ごちる。すると、そんな気分に不似合いなチャイムが鳴った。
表情を歪める。
一緒に来るんじゃないのか?
話では、午後は休診だから仕事終わりの寂雷と一緒に来るという話だったのだが。
訝し気にモニターを覗く。
「…誰。」
金髪の顔の整った男と目の下の隈が酷い男という怪しげな組み合わせ。まさか何かしらの事件に巻き込まれているのではないかと不安になったが、金髪の男の言葉でその疑問は晴れる。
「こんちゃー!寂雷センセーの部屋っすかー?!!」
…え。
今、間違いなく寂雷という名前が出たが、まさか、あの人の知り合いがこんな人間だとは雪切も想像していなかった。
知り合いということは分かったが逆に怪しい。
すると後ろにいた隈の酷い男が慌てたように口を開く。
「お、おい一二三!急にそんなこと言ったら向こうも困惑するだろ…。」
「えー?こーやった方が手っ取り早いじゃんか。」
「それは、まあ、そうだが…。」
「っにしても反応ねーなー寝てんのか??おーい!!」
ピンポーンピンポーピンポピンピPPPP…
部屋にチャイムが滝のように響き渡る。流石に焦った雪切はエントランスのドアを開けた。
おっ、開いた開いた!という声を聴きながら、雪切はその場にへたり込む。
二人いるなんて聞いてない。
あの人がいないなんて聞いてない。
心の中で悪態をつきながら、重い体をなんとか持ち上げる。
…来る、のか。
不安で塗りつぶされる。雪切は今まで寂雷以外でそういう事をしない相手と普通の会話をしたことが無いのだ。しかも今日、これから、初めて会う人間。
するだけなら、簡単なのに…。
片手で体をさする。風呂上がりに軟膏を塗っているが傷跡は残ってしまう。これを評価してくれる人はもういなくなってしまった。
不安で、寂しくてしょうがない。
癖のようになってしまったため息をつくと、玄関の方のチャイムが鳴った。
「…来た。」
借金取りにでも追われているかの如く怯えた表情で、雪切はゆっくりと扉を開いた。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時