【入間銃兎】運命だけど、恋じゃない。【男主】

ただそれだけの人生 ページ25

嫁がクソ可愛い。
クソ可愛い嫁が泣いている。



「どっ…！うっ…！？」



どうしたんですか、と聞きたいが
彼から滲むフェロモンが強烈すぎる。

炒飯の良い香りとは別の、アマくて香しい。

ぽろぽろ零れる涙もオイシそうで、アマそうで、ウマソウ。




「A…ッ」




外でもそうだ。ヒートが近いのか知らないが時折、物凄く強烈な色香が漂う。しかも最初に会った時と比べ物にならないほど濃くなっている。
頭が熱くてうだりそうだ。

自分に鋭い爪と牙が生えてしまったのではないかと錯覚するほどに痛烈に関節が悲鳴を上げた。

欲しいほしいホシイ
噛みたい食べたいウバイタイ

ゆらりゆらりゾンビのように歩む。
呆けたA。ああ、カワイイ。




『い、銃兎さん…？』




指先が魚が喰いついた釣り竿のようにピクピク動く。
銃兎はAの肩を爪が食い込むほど強く掴み、露わになっている首筋に＿＿＿



かぷり



歯を当てた。




『は？』




かぷかぷ
猫の甘噛みよりも弱く




『あ、の…』




生温かい息と、唾液が、ねちょり
Aの首の筋が強張るのを顎で感じる

怯えている
駄目だ
ダメだ
はなれろ
今すぐに
さもないと




「あァ……噛みたい」



＿




どんッ＿＿＿！！！




気付けば入間さんを突き飛ばしていた

怖くて怖くてたまらなかった

なのになんでか、いい匂いがして

安心して

ユルシテしまう自分が気持ち悪くて




気が付けば涙は止まっていた




瞳孔の開いた目、ゆらり
ゆらりゆらゆら

牙をむいて

俺をうつして

爪を立てて




『あぁ、サイアクだ』




零れた言葉に入間さんが
狼狽して

それが俺の声だと気付くのに
時間が



信じてたなんて口が裂けても言えなかった他のアルファと違うなんて知った気でいた結局何も変わらない変わらないカワラナイわからない

無表情心配嫌悪心配微笑み本能本能

抗えない運命

一緒にいたい隣にいたい傍にいたい離れたくない離れられない好き好き だ ぁ い す き




ひたり




『………やっぱり、ただの運命だった』




馬鹿みたいだ
馬鹿だったんだ

ついさっきまで感じていた歓喜が、喜びが、枯れた。
嫌いだ



俺が。



人のせいにする俺が嫌いだ。オメガと託(かこつ)ける俺が嫌いだ。
俺は誰よりも俺を貶める。一番蔑んでいたのは、俺だ。




これからも俺はオメガであり続ける。
そして運命であり続ける。

ただそれだけの人生(コト)だったんだ。

not cross→←腐蝕の王

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